第2章 モロッコ-投資環境

経済

■経済動向

モロッコは、MENA(ミーナ)と呼ばれる中東・北アフリカの新興経済地域の一角を占めています。また、「アラブの春」と呼ばれる政治変革の波が地域を襲った際も、抜群の政治的安定によってこれを切り抜けました。自動車工場の誘致に成功するなど、世界的に新興国経済に陰りが出る中、明るい話題が聞かれます。
2014年の名目GDPは9,746億ディルハム(1,020億USドル)で、世界62位。一人当たり名目GDPは約3千USドルで、アフリカでは比較的豊かな国と言えます。経済外交面では、特に、旧宗主国のフランス、ジブラルタル海峡を挟んで近接するスペインとの間の関係が強く、また最近ではイスラム国同士の経済関係も深まっています。
モロッコは世界のリン鉱石の埋蔵量の75%を保有しており、採掘量も世界第2位(2014年)。同国の輸出品目の中でもリンが大きな割合を占めるほど、経済に大きな影響を及ぼしています。

■GDPと経済成長率

モロッコの実質経済成長率は、1997年のマイナス成長を最後に、18年にわたってプラス成長を堅持しています。特に過去10年ほどは2.6~7.7%の範囲で安定成長を見せています。2008年の世界金融危機の時も、2011年の「アラブの春」で観光が落ち込んだ時も、大きく揺らぐことはありませんでした。
国土の2割以上が耕地の農業国で、オリーブ、オレンジ、小麦など多くの農産品が生産されます。水産業も盛んでタコやイカなどが日本にも輸出されています。また、リン鉱石を中心とする鉱業や、繊維・衣類産業など労働集約型の軽工業などが発達しており、アフリカ大陸では産業分布が比較的広い国です。近年は、自動車や電子部品産業、航空機産業の誘致が進み、高付加価値産業への産業構造転換が図られています。
早くから経済の自由化、外資の誘致、インフラ整備を経済政策として掲げており、21世紀になって順調な経済成長をするようになりました。つながりが深い欧州経済の低迷や、主要産業である農業が天候に左右されやすいなど不安定要素があるものの、安定的な成長を遂げている国だと言えるでしょう。
しかし、エネルギー資源を輸入に頼っていることから、財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に悩まされています。財政赤字の規模は2014年に449億ディルハム、対GDP比は4.8%と高い水準にあり、喫緊の課題と言えます。
出所:IMF「World Economic Outlook Database, April 2015」
出所:IMF「World Economic Outlook Database, April 2015」

■貿易

モロッコの2014年の輸出額は約230億USドル、輸入額は約458億で、大幅な輸入超過となっています。世界金融危機の影響を受けた2009年以外は、一貫して輸出入ともに伸びており、貿易赤字は慢性的な状態です。
輸出については、農水産品、衣類、電子部品、資源など品目の多様さを誇り、近隣の大市場である欧州へ向けて大量に出荷しています。タンジェの港湾など、インフラ整備を進めて外資の製造業を呼び込む工業化政策も一定の成果を挙げています。2012年に現地生産を開始したルノーグループによる自動車の輸出も実績をあげています。輸入は、サウジアラビア等の産油国にエネルギーを大きく依存しています。2014年下期に国際原油価格が下落したため輸入額が抑えられ、貿易収支もやや改善しました。
モロッコは自由貿易を積極的に推進しており、2000年にEU、2006年には米国とトルコとのFTAを締結、2007年にはチュニジア、エジプト、ヨルダンとのFTA(アガディール協定)を締結しました。今後もアフリカ諸国を中心にFTAを拡大していく方針を表明しており、多角的な貿易と高付加価値産業による輸出の増加に期待が寄せられます。
[国別・地域別の輸出入]
モロッコからの輸出先は、モロッコ為替局の調査(2014年)で、スペイン、フランス、ブラジル、イタリア、インド、米国の順で、欧州への輸出が5割を超えています。対日輸出は2億6,200万ドル(2013年)で輸出全体の約1%であり、品目は魚介類(タコ、イカ等)、電子部品、リン鉱石関連等です。
モロッコへの輸入は、トップは輸出と同様にスペインで、以下、フランス、中国、米国、サウジアラビアと続きます。欧州からの輸入は全体の4割強を占めています。日本は3億2,200万ドル(2013年)で輸入全体の1%以下で、その品目は乗用車、産業用車両、機械類等です。
[品目別の輸出入]
輸出を品目別に見ていくと、近年の資源価格の下落などによりリン鉱石・リン酸関連の割合が下がり、産業振興が図られてきた自動車・自動車部品が伸びました。その結果、従来の資源依存度が高い状態から、自動車・自動車部品(20%)、リン鉱石・リン酸関連(19%)、農水産品(18%)、衣料品(17%)と主要分野が分散するバランスへと変化しています。
輸入を品目別に見てみると、石油製品9.3%、原油7.3%、天然ガス5.0%などエネルギー関連が上位を占めます。

■産業別動向

ここでは、モロッコで産業の多様化が進む中、特に同国が育成に力を入れている産業を挙げてみます。工業国化を長年目指してきた同国にとって、近年ルノーが進出した自動車産業は、将来への期待を一手に集めているといえます。進んだインフラ、勤勉な国民性、近い欧州市場が、モロッコの優位性を示しています。

 

 

投資環境

■ビジネス環境の現状2015

世界銀行と国際金融公社(IFC)が、「ビジネス環境の現状2015」を共同で発表しており、このアンケートから世界のモロッコへの評価をみることができます。
モロッコは投資環境の総合ランキングで71位と、2014年版の87位から順位を16上げました。大きく評価が上がった項目は「建設許可手続」「資産の登録」、逆に評価が下がった項目は「事業の開始」「事業の撤退」でした。

■直接金融(株式)市場・為替

カサブランカ証券取引所(CSE)は1929年に設立された歴史ある取引所です。上場企業数は少ないものの、時価総額470億USドル(2015年1月)で、ヨハネスブルグに次いで、ナイジェリア(ラゴス)やカイロの証券取引所と並ぶ、アフリカでは規模の大きな取引所となっています。
カサブランカ証券取引所で取引されている代表的銘柄25社による「CFG25種指数」という株価指数がありますが、この25社が資産総額の8割強を占めていると言われています。
世界金融危機以前の好況には株価が急騰する時期もありましたが、新興国投資が鈍ってきている影響もあって2011年をピークに下落傾向となりました。2013年9月に下げ止まり、やや復調の兆しを見せていましたが、2015年は2万DH台でやや軟調となっています。
為替は、欧州との経済的なつながりが深いため、モロッコディルハムを、ユーロとUSドルを8対2の割合で通貨バスケットに連動させています。そのため、ユーロに対しては比較的安定的な動きをします。ドルに対してはアメリカの金融緩和縮小の見通しなどにより、2014年半ばからディルハム安となっています。
 

■外国直接投資額(FDI)

現国王ムハマンド6世(1999年~)即位後は積極的な構造改革が進み、増減を繰り返しながらもFDIは増加傾向にあります。EUとのFTA発効(2000年)により欧州からの投資がさらに増加し、「アラブの春」(2010年)では穏健な民主化に成功した後も、他のアラブ諸国を尻目に順調に伸ばし、2014年は35億ドルと過去最高を記録しています。
産業分野別に見ると、ルノーなど自働車産業、カナダのボンバルディア社など航空機産業、半導体のR&D誘致などに成功し、高付加価値分野の製造業での誘致に成功してきました。また、観光・不動産関連の投資が好調で、2014年は不動産業が29.5%、観光業9.3%を占め、近年増加傾向だった製造業を抜いてトップとなりました。
国別では旧宗主国フランスからのFDIが10年連続トップで、2014年は32.4%。次いでUAE(12.3%)、サウジアラビア(10.6%)となっており、湾岸諸国からのリゾート開発などへの投資も盛んです。
出所:UNCTAD「World Investment Report 2015」
 

■インフラ状況

モロッコは、運輸・物流のハブ拠点となることを目指し、インフラ整備を精力的に実施しています。特に、スペイン本土南端との距離は、ジブラルタル海峡を挟んで最も近いところで14キロに過ぎません。こうした地の利から、海峡を挟んでモロッコ側に位置するタンジェでは、大西洋にも地中海にもアクセスできる積出港としての機能を拡充するため、経済特区化による工場誘致が推し進められています。

 

 

規制・インセンティブ

■投資促進政策

1993年に外国人投資家を区別する「モロッコ化法」が撤廃、1995年に新たに「投資憲章(Charte de l’investissement)」が定められ、外国投資を促進する法制度の整備が進められました。これによって外国投資家は、一部の例外を除いてほぼ国内投資家と同等に投資することができるようになり、優遇措置を受けるための国籍条項も撤廃されました。
2006年に積極的な外資誘導による産業振興戦略「エマージェンス計画(Emergence Pact)」が提示され、国際競争力の高い6つの戦略的重点分野が決定され、それに基づいてフリーゾーン(税制優遇ゾーン)が整備されました。その後、ルノー(自動車)、ボンバルディア(航空宇宙)などグローバル企業や関連企業が多数進出し、大きな成果を生んでいます。
また、2009年に発表された「産業新興のための国家プログラム(PNEI)」では、「モロッコ投資促進庁(AMDI)」の設置、人材育成のための支援、ビジネス環境の改善など総合的な施策が盛り込まれ、投資促進と産業振興をより強力に実現する体制の強化が図られています。
モロッコ政府は、インフラ整備、行政手続きの簡素化、設備投資費用負担の軽減、税制優遇措置などに取り組み、投資保護協定や自由貿易協定の交渉・締結を積極的に進め、外国投資を促進する立場を明確にしています。なお、日本とは投資保護協定、自由貿易協定ともに締結されていません。

■規制

・国営リン鉱石公社(OCP)が独占するリン鉱石の開発・採掘等への参入・資本参加はできません。
・農地を購入することはできません。
・モロッコ設備・運輸省が行う公共事業の入札は、国内事業者が優先されます。

■投資優遇制度

モロッコにおける投資優遇制度は、産業分野や地域による条件設定が組み合わせられているためやや複雑ですが、AMDIや各州のワンストップ・ショップ窓口での支援を受けることができます。
投資条件と優遇措置の異なる下記3制度を活用することができ(複数制度の利用も可能)、さらにフリーゾーンにおいてはそれぞれの優遇措置を受けることができます。
[投資促進基金(IFP:The Investment Promotion Fund)]
下記①~⑤のいずれかの要件に該当する事業が、IFPの助成を受けることができます。
[ハッサン2世基金(Hassan II Fond)]
 産業クラスターの育成が望める技術集約型の高付加価値産業6分野への投資事業を対象として助成を行う基金です。
[税制優遇措置]
 初期投資における設備・機材等の輸入に関して、関税と付加価値税(VAT)が免除されます。
[フリーゾーン(税制優遇ゾーン)]
 上記の各種助成・優遇措置に加えて、輸出のためのフリーゾーン(税制優遇ゾーン)では下記の税制優遇等を受けることができます。

 

 

工業団地・フリーゾーン

戦略的重点分野である自動車、航空機、農水産物加工などの工業団地や、オフショアリングなどの産業振興地区が全国に定められています。最北部のタンジェ周辺にはタンジェ輸出フリーゾーン、タンジェ・オートモーティブ・シティー、タンジェ・地中海港ロジスティック・フリーゾーンなど、北部ケニトラやラバト周辺にはアトランティック・フリーゾーンやテクノポリス、カサブランカ周辺にはヌアサー航空産業フリーゾーンや複数のオフショア拠点などがあります。また、ダフラやラーユーンなど農産品加工のためのフリーゾーンもあります。
[タンジェ・フリーゾーン(TFZ)]
1999年に開設されたモロッコ第一号の輸出フリーゾーンで、モロッコ最北端の都市タンジェ市内から南西へ約12㎞に位置し、タンジェ国際空港に隣接し、タンジェ地中海港まで60㎞ほどを高速道路が接続しており40分ほどの所要時間です。
フォルクスワーゲン(独)などグローバル展開する自動車メーカーや、デルファイ(米)などの自動車部品メーカーなど、自動車関連企業が多く生産拠点としています。さらに、航空機、電気・電子、食品加工、繊維、ロジスティックなど計600社以上が進出し、投資総額60億DH以上、4万人以上の雇用を創出していると言われています。モロッコで最も成功しているフリーゾーンの1つで、大きな経済効果をもたらしています。
日系企業は、フジクラ、矢崎総業、住友電装といったワイヤーハーネス製造企業に加えて、ルノー・日産アライアンスのモロッコ進出にともなって、デンソー、タカタなどの部品メーカーの進出が相次いでいます。
[タンジェ・オートモーティブ・シティー(TAC)]
 自動車産業クラスターの振興に特化した「産業統合プラットフォーム(P2I)」として、2013年に設置された新しい産業フリーゾーンです。タンジェ市内まで14㎞、タンジェ地中海港まで22kmと近く、ルノー・日産アライアンスのタンジェ工場(280ha)に隣接した立地にあります。すでに345haが完成しており入居が始まっています。
[アトランティック・フリーゾーン(AFZ)]
 北部大西洋沿岸地域の中核都市ケニトラ市内に2012年に設置されたフリーゾーンです。ケニトラは、タンジェとカサブランカなど主要産業都市と高速道路や鉄道で結ばれている交通の要衝で、首都ラバトからも40kmの位置にあります。自動車部品産業を中心とした誘致を進めており、すでにヒルシュマン(豪)、Coficab(チュニジア)、フジクラ(日)などが操業中です。350haと規模が大きく、エレクトロニクスやロジスティクスのエリアも設けられる予定です。
[ヌアサー航空産業フリーゾーン(MIDPARC)]
2013年に航空宇宙産業に特化したフリーゾーンとして開設しました。カサブランカの南30㎞に位置し、モロッコ最大の空港で欧米やアフリカ、中東のハブとなりつつあるムハンマド5世国際空港に隣接した立地にあります。
 世界第3位の航空機メーカーであるボンバルディア(カナダ)が航空機関連部品の工場を開設、総額が5年で2億USドルという大規模投資で、2013年には一部生産を開始しています。また、ユナイテッド・テクノロジーズ(米)、サフラン(仏)などの航空機メーカーや、エアバス・グループ(仏)のアエロリア、重機メーカーのイートン(米)、サフラン傘下の電子機器メーカーのサジェム(仏)などの航空機部品メーカーが数多く進出をしています。
【モロッコの工業団地・フリーゾーン】
①アトランティック・フリーゾーン
②テクノポリス
③カサニア・ショア
④ヌアサー航空宇宙シティ
⑤タンジェ・フリーゾーン
⑥タンジェ・オートモーティブ・シティー
⑦テトゥアン・ショア
⑧ウジダ・ショア
⑨クリーンテック
⑩フェズ・ショア
⑪アグロポリス
⑫マラケシュ・ショア
A タンジェ
B テトゥアン
C ベルカネ
D ウジダ
E ケニトラ
F フェズ
G メクネス
H ラバト
I カサブランカ
J マラケシュ
K アガディール
L ラーユーン
M ダフラ
ア オフショアリング
イ 航空・宇宙
ウ 再生エネルギー
エ 一般
オ 自動車
カ 農業

 

 

参考文献

・IMF: International Monetary Fund
・世界銀行
・UNCTAD(国連貿易開発会議)
・JETRO(日本貿易振興機構)
・JICA(国際協力機構)
・在モロッコ日本大使館経済班
・大和総研
・三菱東京UFJ銀行 Global Business Insight 2015.8.28