第12章 インド-労働環境

労働環境

■産業別GDPおよび労働人口構成比

2017~2018年時点のGDPの構成比は、第1次産業15.87%、第2次産業29.73%、第3次産業54.40%となっており、現在のインド経済は第3次産業によって牽引されています。中でも、特にIT、ソフトウェアの分野が盛んで、高い英語力と教育水準を有する多くの労働者が第3次産業の発展を支え、インド経済全体を牽引しています。

また、労働人口の構成比は、2017年時点で第1次産業が42.74%、第2次産業が23.79%、第3次産業が33.48%となっています。つまり、労働力人口の3割に過ぎない第3次産業の従事者がGDP全体の5割以上を産み出す一方で、労働力人口の40%を占める第1次産業のGDPへの貢献度は15%程度という状況になっています(“StatisticsTimes”)。

■失業率

失業率は、1994年以降、年平均4.7%と低い水準を推移していましたが、2000年度以降は増加傾向に転じ、2017年7月~2018年6月は6.1%、都市部では7.8%、農村部では5.3%と1972~1973年以降最も高い水準となりました。(CIA“TheWorldFactbook”)。

失業率上昇の原因として、労働人口が毎年増え続けているほかに、産業が従来の第1次産業から、第2産業、第3次産業へと移行しつつある中で、職能の不一致が生じていることなどが挙げられます。

インドでは、1991年まで従来の社会主義的な労働機会の確保・拡大が効率より優先されていたため、労働者の権利意識が潜在的に高いと言えます。労働法も非常に労働者保護の強い傾向になっており、特に工場労働者の解雇が困難であることが特徴として挙げられます。

たとえば企業は、雇用の調整を行わなければならないことがあります。下請、請負、日雇労働者の活用、レイオフはもちろん、時には解雇により雇用の調整を行います。

しかしインドでは、労働争議法上、100人以上雇用する工場は、事前の州政府の承認なしに解雇することはできません(労働争議法25M条)。

ただし、1993~1994年で工場法に従って登録している工場のうち、100人以上雇用する事業所は11%にすぎず(Govt.ofIndia,AnnualSurveyofIndustries1993~1994:SummaryResultsforFactorySector,NewDelhi,1996)、残りの事業所においては、退職金の上乗せなど退職の条件を個別に合意する方法(VRS:VoluntaryRetirementScheme)を取る企業が多くなっているのも実態です。

同様に、採算性の低い工場の閉鎖についても、雇用規模100人以上の工場は閉鎖に伴う解雇時に政府の許可を必要としていますが(労働争議法25条)、閉鎖の届出の承認には時間を要することなどを理由として、違法な解雇が行われてきました。

日系企業においては、労務管理の誤りから現地スタッフとのトラブルを招くことのないような対応が求められます。

■日本語教育機関数

日本語教育学校が近年急増していることに見られるように、インド人の日本に対する関心は強くなっています。労働者の間でも日本に対 する関心が高まっており、日本語の使えるインド人労働者は年々増加する傾向にあります。

■日本企業の職種別賃金水準

日本企業の職種別賃金水準を見ると、数年前と比較して上昇傾向に あります。2017年の実績は以下のとおりです。

■労働組合と労働争議

労働組合の交渉方法として、特に国営の企業では、労働組合をつくり、働かずして賃上げ交渉を行うという悪習があります。これは、インドがイギリスから独立した際に、通常の武力の集結による独立運動を行うというプロセスを取らず、仕事を放棄することでイギリス政府およびイギリス系企業に服従をしないという意思を示すことで、マハトマ・ガンジー主導の独立運動をしたことの影響と考えられています。

労働争議の中でも、インドが英国からの独立後最長・最大なものとして、ムンバイの繊維工場で1982年に起こった無期限ストが挙げられます。ダッタ・サーマントが25万人の参加者を率い、1年以上に渡り解雇や低賃金に対しての拒絶的な姿勢を示しました。

その後、労働組合の登録数は1986年から1996年にかけて約4万5,000から約5万5,000に増加していますが、組合員数は約800万人から約550万人へと減少しており、ストライキの発生件数も約1,500件から約半数にまで減少しています(Govt.ofIndia,PocketBookofLabourStatistics)。

これは、労働組合の分裂・細分化の表れであり、「内向きの多元化(InvolutedPluralism)」と呼ばれています。

海外進出企業にとって、労働問題への対応は経営戦略にまで影響が及び得る重要な問題です。労働争議が行われると、操業停止などを強いられることさえもあります。その結果、売上や利益の減少という直接的影響や、取引先からの信用低下など間接的なブランドイメージの悪化が発生する可能性もあります。さらに、労働問題は、現社員のモチベーションの低下を引き起こしたり、今後の採用活動において、優秀な人材から敬遠される要因にもなりかねません。主な労働問題の原因としては、本国とは異なる労働法や関係法規、文化の違いが挙げられます。

インドに先立ち多くの日本企業が進出している中国では、実際に労働争議の急増が経営に影響を及ぼしています。2015年時点で80万件で過去最多と急増しています。

 

労働争議の原因を見ると、労働報酬、保健福祉、契約解除の順に多くなっています。中でも外資系企業では、労働報酬が原因となる傾向がさらに強まっています。

インドにおける労働争議を分析すると、外資が100%、ないしは半数を超える出資比率の現地法人で多くストライキなどの労働争議が起きています。インドの労働関連法は、インドの社会主義的な特徴が反映された労働者保護の傾向が強くなっており、労働者の権利意識の強いことが、労働争議が増加する要因として挙げられます。

日本企業で自動車の製造・販売を行っているトヨタやホンダでも、インドの現地法人で労働争議が起きており、特にトヨタは2度の大きな労働争議を経験しています。この影響で、急成長しているインド自動車市場でありながら、労働争議が起きた2011年は、トヨタの年間生産台数が前年割れという事態となりました。

これが、トヨタの年間製造計画や、売上予測・達成率に影響を及ぼしたことは言うまでもありません。このように、労働問題は経営に影響を及ぼす重要な要因として捉える必要があります。その他の日系企業における労働争議の事例としては、以下のものが挙げられます。

インドのデリー近郊のグルガオンにあるホンダ・スクーター・インディア社では、2004年末から半年以上にわたり、労働争議が発生しました。この影響により、それまで1日約2,000台であった生産量が約400台にまで減少し、多額の損失が生じたと言われています。

 

この労働争議では、臨時工の労働条件に関する不満が主な原因とされています。また、2 0 1 1 年には、マルチスズキのマネサール工場で労働争議が発生しており、これにより生産量が前年の半分まで減少したとされて います。こちらも同様に労働条件に関する不満が原因とされていますが、マルチスズキ側は、事前予告のない違法な労働争議であったとしています。 2 0 1 4 年にはトヨタ自動車の子会社において、約 4,0 0 0 人の労働者により 1 カ月に及ぶストライキが発生しました。従業員による製品破壊や管理者への脅迫を理由に関係者は工場から締め出され、一部 社員は停職処分とされました。労働者は福利厚生の充実や賃上げを要求しましたが折り合わず、カルナタカ州の紛争処理機関に仲介を依頼 することで合意しました。 このように、インドでは、事前の予告や許可が必要な場合でもそれらを怠り、違法にストライキを起こすケースも見られますので、注意が必要です。

インドに先行して日本企業が進出している中国でも、賃金の上昇や現地スタッフの定着率が低い点で、インドと同様の傾向が見られます。インドでの人事マネジメントを考える上で、中国における日本企業がこれらの問題に対して取っている人事戦略を参考にすることができます。

たとえば、中国では従業員同士が互いの給料を開示するなど、会社の評価制度や自分自身の評価に非常に高い興味が持たれています。インドにおいても、この点について同様の傾向が見られます。自己が不利益に扱われていないか、平等に評価・判断されているかをとても敏

感に感じ取ります。

近年まで、会社は運命共同体として考えられていた日本においては考え難いことですが、海外においては一般的に雇用者と従業員との関係は対等と考えられているため、自己の要求や言い分を強く主張することも多くあります。

主張する行為自体の善し悪しではなく、その主張の内容に会社が適切に対応しないことは、新たな人事・労働問題を生みだす原因になります。

賃金の交渉に際して、インドでは通常、提示された金額に対して交渉を行います。そのため、先に金額を提示する必要がある労働組合からの賃上げ交渉の際には、企業に法外な賃上げを要求することがあります。

このような習慣を知ったうえで、法外な要求に対して動揺したり、要求を鵜呑みにすることなく、労働組合が本当に要求したい水準について冷静に確認していくことが必要となります。

■労働組合法

労働組合法は、一時的または恒久的に形成される団体である労働組 合と雇用者組合の関係を円滑にするための規定です。労働組合には、2 つ以上の組合によって構成される連合組合も含まれます。 常時構成員が、労働者の 1 0% または 1 0 0 名のどちらが少ないほ うの人数以上であり、最低 7 名の構成員がいる組合は、所轄機関へ の登録が認められます。つまり、7 0 名までの企業では 7 名以上、7 0 ~ 1,0 0 0 名の企業ではその事業所の 1 0%、1,0 0 0 名以上の企業では 1 0 0 名以上の構成員がいる場合に、所轄機関への登録が可能となります。労働組合を登録することは義務ではありませんが、登録組合は労働争議権などの一定の権利が受けられるようになるので、登録された後 は組合との交渉には留意する必要があります。登録組合には毎年年次 報告書を提出することが義務付けられています。なお、1 5 歳以上で なければ、労働組合に参加することはできません。

また、1 8 歳未満もしくは、5 年以内に道徳的な理由による有罪判 決を受けている場合には、組合の役員等(the Executive or Other Office-bearer)にはなることができません(労働組合法 2 1A 条)。

インド国内の労働組合を統括する主な中央組織であるナショナル・ センター(National Center)は以下のとおりです。この上位 5 組合 で全組合員の 7 5% を占めています。

・ インド国民労働組合会議(INTUC:Indian National Trade Union Congress)

・ 全 イ ン ド 労 働 組 合 会 議(AITUC:All-India Trade Union Congress)

・ インド労働組合センター(CITU:Centre of Indian Trade Unions)

・ インド労働者連盟(HMS:Hind Mazdoor Sabha) ・ インド労働協会(BMS:Bharatiya Mazdoor Singh)

インドの労働法

■インド労働法の枠組み

インドでは英国からの独立後、社会主義政策を布いていたため、労働者を保護するための法律が数多くあります。労働者の権利に関する法律の立法権は中央政府と州政府の双方にあり、中央政府立法の連邦法で約50、州法を併せると約165にも達すると言われています。これらの法律の多くは、英語とヒンディ語の両方で作成されています。
従って、連邦法と事業所を管轄する州法や自社が属する産業ごとに労働条件を定めた労働関連法規を確認する必要があります。
また、英国の影響もあり、インドは判例法国でもあるので、制定法では曖昧で解釈に頼る場合などは、判例を確認しておくことも重要となります。
日本は成文法であるため、両国の対応に違いには留意する必要があります。

■「労働者」“Work Man”と「非労働者」“Non-Work Man

インドの労働法の適用対象者とされているのは、“Work Man”「労働者」であり、それ以外の者は“Non-Work Man”「非労働者」として労働法の保護を受けず、“Indian Contract Act, 1872”『一般契約法』上での問題として取り扱われることになります。
「労働者」の定義は、最も基本的な労働法の一つである1947年労働紛争法(Industrial Disputes Acts,1947)2(s)条に規定されており、「非労働者」についてもそこから解釈することになります。
この規定からすると、「労働者」(Work Man)とは、原則的に事業主に雇用されている者になり、「非労働者」(Non-Work Man)とは、以下のとおりの例外規定4項目に該当する者になります。
(ⅰ)空軍、陸軍、海軍に所属する者
(ⅱ)警察または刑務所で雇用されている者
(ⅲ)経営者的・経営管理的な立場にある者
(ⅳ)賃金が10,000ルピー/月以上の監督的な立場にある者
上記(ⅲ)、(ⅳ)の「経営者的・経営管理的」や「監督的」な立場に関して、客観的に明確な基準はなく、判例に基づいて個別具体的に判断する必要が出てきます。
商品の検査を行う薬剤師、事務職のオフィサー、その他管理監督的な立場にないもので、前述の(ⅰ)~(ⅳ)に当てはまらない労働者については、ワークマンとして扱われます。
日本でも、「管理監督者」は、労働基準法が定める労働時間、休憩および休日は適用外となり、保護の対象から外れます(労働基準法第41条2項)。
しかしながら、ファーストフード店店長の「名ばかり管理職」等の問題をきっかけに、2008年4月1日付で厚生労働省労働基準局から「管理監督者の範囲の適正化について」の通達が出されました。
現在、日本では「管理監督者」とは、名称にとらわれることなく、①労働条件の決定、労務管理について経営者と一体的立場にある、②労働時間等の規則の枠を超えて活動する、③賃金も優遇されているといった点が実態に即しているか総合的に判断することとされています。
インドと日本の違いは、日本の場合には原則として、「管理監督者」も労働者の範疇に含まれるものであり、基本的には保護の対象という扱いです。日本の労働基準法上適用除外となるのは、労働時間、休憩、休日の規定に限定されています。
しかし、インドでは、「非労働者」になると多くのインド労働法の保護の対象から外れてしまいますす。特に解雇にかかる点においては、労働者と別の扱いとなるために、労使紛争となった場合の管轄が異なります。
「労働者」の場合は、まず労働裁判所(Labour Court)で審議することになり、そこでの判断に不服があれば高等裁判所に上告します。
一方「非労働者」の場合は、民事裁判で争うことになります。
このように、「労働者」「非労働者」の範囲や紛争の際の管轄機関が異なることに留意する必要があります。
従って、日本での「管理監督者」の概念がインドでの「非労働者」にそのまま通用するとは考えない方が無難といえます。
つまり、インドにおける労務管理にあたっては、日本との違いを考慮し、特に下記の4点に留意する必要があるといえます。
a.連邦法、州法、産業別に労働法があるので事業所の管轄州と自社の産業に関わる労働法に留意する。
b.インドでの雇用は、「労働者」(Work Man)として雇用するのか、「非労働者」(Non-Work Man)として雇用するのかを明確にする。
c.スタンディング・オーダーズ(Standing Orders)または従業員手帳(Employee Hand Book)を作成し、会社のルールを明確にする。
d.法律によって、同じ英語(ヒンディ語)であっても意味合いが異なることがあるので留意する。

■社会的弱者保護に関する法律

インドでも日本と同様に、労働者への強制労働の禁止や、児童や女性などへの就業にかかる保護について規定した法律があります。主な法律としては、以下の2つが挙げられます。
(a)1976年拘束労働制度(廃止)法“Bonded Labour System (Abolition) Act,1976”International Labor Organization(以下ILOとする)で定められた強制労働条約(29号)に基づき、処罰等の強制力をもって、または労働者自らの意思を持たずに労働させることを禁止する法律です。 日本の労働基準法5条に定められた強制労働の禁止と同じ趣旨を持ちます。
(b)1986年児童労働(禁止および規制)法“Child Labour (Prohibition and Regulation Act, 1986)ILOの138号条約(就業最低年齢)と、児童の労働環境について規定した182号に基づき、児童の就業制限や労働環境の改善について定めています。日本の労働基準法6章(56条―64条)に定められた年少者についての就業制限、労働環境の改善と同じ趣旨を持ちます。

■労働基準に関連する法規

 [ 店舗及び施設法(The Shops and Establishments Act)]
商店、ホテル、レストラン、飲食店、劇場、娯楽施設などの営利事業を営む小規模店や未登記の小規模店舗、工場法の対象となっていない工場における労働者の、労働時間、休憩時間、時間外労働、休日、
休暇、雇用の締結などの労働条件や店舗の保守、その他使用者と労働者の権利・義務について規定した法律です。
労働法の中で非製造業における労働基準を規定しています。
この法律の対象となる労働者には、事業所で直接雇用されている労働者、エージェントを通じて雇用する契約社員、訓練生などが含まれます。
店舗及び施設法の適用対象となる事業所は、該当後3 0 日以内にForm A を当局に提出する必要があります。提出後、証明書としてForm C が発行されます。更新の際は15 日以内にForm B を提出し
ます。登録の更新は3 年間有効となります。更新の場合には証明書としてForm D が発行されます。労働者数を変更した場合は15 日以内に、その他の変更は30 日以内にForm E を提出する必要がありま
す。万が一証明書を紛失した場合には、手数料がかかりますが、証明書のコピーの再発行を受けることができます。
店舗及び施設法は、州ごとに法定の権限があり、各州政府が制定しています。
日本と同様に、有期雇用契約更新の取扱は、労働者とのトラブルのもとになりやすいので、注意が必要です。1 年以上の雇用契約の場合は3 0 日前までに、3 カ月以上1 年未満の雇用契約の場合は1 4 日前
までに、更新の有無についての通知をする必要があります。また、ムンバイ店舗及び施設法(The Bombay Shops andEstablishment Act, 1948)では、3 カ月以上勤務している労働者に対して、6 0 日あたり5 日(ただし2 4 0 日以上の場合は2 1 日)の休暇を与えるものとされています(同法35 条)。休暇中の給与は、3カ月の平均賃金を支給します(同法36 条)。
[1948 年工場法(The Factories Act, 1948)]
この法律は、主に、工場労働者の労働条件を規定し、労働者の安全、衛生、福利厚生における基本的な最低条件を保障する目的で制定されました。日本の労働基準法に当たる法律で、工場などの製造業に適用されます。工場法が適用となる事業所は、就業規則、服務規程、雇用契約書等を作成する際、工場法に準じて作成する必要があります。工場法が適用される「工場」とは、以下のいずれかに該当する工場を言います。
・ 10 人以上※1 の労働者が、製造工程(Manufacturing Process)の中の、動力支援を用いた行程のある環境で働いている
・ 2 0 人以上※2 の労働者が、製造行程の中の、動力支援を用いた行程のない環境で働いている
※1ラジャスタン州法では2014年11月11日の法改正により、20名となった
※2ラジャスタン州法では2014年11月11日の法改正により、40名となった
なお、工場法の適用人数に満たない事業所については、前述の店舗及び施設法(Shops & Establishment Act)が適用されます。工場法で規定されている労働基準は、以下のとおりです。ただし、工場法においても、州や一部の工業団地では、通達により別途労働条件の規定がされているケースがみられますので、注意が必要となります。

■賃金支払いに関連する法規

[1936 年賃金支払法(Payment of Wages Act, 1936)]
1 9 3 6 年賃金支払法は、企業による賃金の支払を確保し、労働者を保護することを目的としています。1 カ月当たり2 万4,0 0 0 ルピー以下の賃金を得ている労働者が対象となります。この賃金には報
奨金(Award)、時間外手当、休暇中の給与を含み、住宅補助手当HRA(House Rent Allowance)は含みません。内容としては、賃金の支払期日および支払方法、控除項目について規定しています。
■支払い期日
使用する労働者数が1,000 人未満の企業:翌月7 日まで
使用する労働者数が1,000 人以上の企業:翌月10 日まで
■支払方法
現金、小切手、口座振込による日給、週給、2 週間、月給払
■控除項目
欠勤控除、罰金、家賃、前払金返済、ローン返済、所得税、社会保険料、その他。控除の限度額については、協同組合の場合は賃金の7 5%、それ以外の事業所の場合には5 0%。遡って控除をする場合に
は、12 カ月まで遡ることが可能
[1948 年最低賃金法(Minimum Wages Act, 1948)]
最低賃金法は、労働者の能力と仕事内容に応じて最低賃金を保証し、特に登記されていない企業に雇用される労働者を保護することを目的としています。
最低賃金は、州政府により地域ごとに特定の産業・職種および労働者の習熟度別に規定されており、同時に政府により全国一律の最低賃金も規定されています。連邦政府、州政府ともに、それぞれの管轄の
範囲内においてその所得、物価、生産性、支払い能力、地域ごとの事情によって、定期的に最低賃金の改定を行っています。
最低賃金の対象となる労働者は、事業主が直接雇用する労働者だけでなく、契約社員、訓練生も含みます。
日本と同様、定期的な改正時には、企業における給与に関する規定に影響を与えますので、常に最新の情報を把握しておく必要があります。
ムンバイのあるマハラシュトラ州では、最低賃金を基本給(BasicPay)と特別手当(Special Allowance)に分けて規定しており、チェンナイのあるタミル・ナード州では、日額で規定されています。
なお、各熟練の定義は、以下のとおりです。
・ 未熟練(Unskilled) … 業務の経験がなく、単純作業に従事する労働者
・ 中熟練(Semi Skilled) … 自分に割り当てられた日常業務に従事する労働者・ 熟練(Skilled) … 独自の判断で業務を行い、責任をもって効率的な業務を行う労働者
・ 高熟練(Highly Skilled) … 効率的な業務を行うとともに、他の労働者の業務を管理する労働者
[1965 年賞与支払法(The Payment of Bonus Act, 1965)]
賞与支払法は、工場法が適用される企業もしくは従業員数20 名以上の企業であって、月額給与が2 万1,0 0 0 ルピー以下である従業員で1 会計年度に30 日間以上に働いたものに対して、利益や生産性と連動した賞与を支払うことを保障しています(1965 年賞与支払法1条)。
なお適用社員の月額給与要件は2 0 1 6 年1 月1 日の法改正により1 万ルピー以下から2 万1,0 0 0 ルピー以下へ変更となりました。該当する従業員に対しては、以下の計算式によって算出されたボーナス
を最低でも支払う必要があります。
月額給与・賃金※1 × 8.33%※2 × 12 カ月
※1 給与(7,000ルピーを上限)もしくは最低賃金のいずれか高い方。給与には住宅補助手当(HRA)と通勤手当は含まれない
※2 剰余金の額に応じて、8.33%以上となる場合がある。ただし上限は20%賞与は、原則として決算日から8 カ月以内に支払わなければいけません。
賞与の支払が企業の任意による日本とは異なり、インドでは一定の要件に該当する場合には、賞与支払義務が生じる点に注意をする必要があります。

■労働争議および退職に関連する法規

[1947 年労働争議法(The Industrial Dispute Act, 1947)]
労働争議法は、主に労使間の争いをストライキやロックアウト(事業所閉鎖)といった権利の行使によってではなく、両者が協調することによって円滑に解決する仕組みや手続を規定したものです。
同法は、労働者数にかかわらず、インド全域の貿易、製造、流通、サービスといったあらゆる産業に属する企業に適用されます。
ただし、労働争議法2 条(S)の(ⅰ)から(ⅳ)でワークマンから除外されているノンワークマンについては、同法の適用除外となります。ここで、対象となる「労働者」とは、会社の運営に携わる「経
営者」もしくは「監督者」層以外の被雇用者になります。
その他の留意すべき点として、以下のことが挙げられます。
・ 同法は州ごとに州の規定と整合性を保つように修正がなされている
・ 従業員の解雇に対する補償や保護などの規定がある
・ 工場閉鎖やレイオフ、人員削減の規制の規定がある
労働者数が1 0 0 人以上の企業の場合には、労使双方が同じ人数の代表者から構成される作業委員会を設置し、労使が協調して労使紛争の円滑な解決を図るべきことを規定しています。
しかし、労使による紛争解決が不調となった場合には、連邦政府が調停員を任命し、調停による解決を図ります。そこでも不調となると、政府は裁判所にその判断を委ねることになります。
労使紛争解決のために設置されている裁判所として以下が挙げられます。
・ 労働裁判所 … 使用者による労働者の解雇等の正当性・合法性をめぐる紛争を取扱う
・ 産業裁判所 … 賃金、手当、労働時間、休憩時間、有給休暇および休日、賞与、退職金、年金などの労働条件をめぐる紛争を取扱う
・ 国家裁判所 … 国家にとって重要な問題や複数の州の企業に影響を及ぼす紛争を取扱う
労働争議法ではレイオフ、人員整理、企業閉鎖、労働条件の変更について規定しています。これらは、雇用する労働者の人数が50 人以上100 人未満の場合と100 人以上の場合で、対応が異なります。
■レイオフ(一時帰休)
原材料の不足、機械設備の故障、自然災害等により、労働者を一時的に休業させることをレイオフと言います。
労働者が通常の定められた時刻に出勤してから2 時間以内に、石炭・電力・原材料等の不足、在庫の滞留、機械設備の故障、自然災害
その他の理由により、使用者が労働者に仕事を提供しない、または提供を拒む、もしくは提供できない場合には、使用者はレイオフをしたことになります。
5 0 人以上1 0 0 人未満の工場の場合には、レイオフをする7 日以上前に事前に労働者に通告しなければなりません。また、5 0 人以上1 0 0 人未満の労働者を雇用する工場において、1 年以上勤務してい
る労働者をレイオフする場合には、補償金を支払わなくてはなりません。補償金の金額は、基本給と物価調整手当の50% となります(労働争議法25C 条)。
1 0 0 人以上の労働者を雇用する工場は、自然災害以外の理由でレイオフをする場合には、事前に政府の許可を得なければなりません。
■人員整理
人員整理は、過剰な労働者を整理解雇することを目的としています。免職、定年退職、雇用契約の終了、長期間にわたる健康を理由とした雇用契約の打ち切りなどによる解雇とは区別されています。
通常は勤続年数の短い労働者から対象となります。景気変動などにより雇用量を増やす場合には、人員整理によって解雇された労働者を再雇用するように努めなればなりません。
日本の場合、人員整理は、賃金の高い勤続年数の高い人から対象となることがありますが、インドでは勤務年数の長い労働者が短い労働者より保護されているので、注意が必要です。原則として、勤続年数の短い社員から人員整理の対象としなければならないこととされています。
人員整理を実施する際には、労働者数が5 0 人以上1 0 0 人未満の使用者は1 カ月前に予告するか、または1 カ月分の予告手当を支払
い、同時に政府に通知しなければなりません。
労働者数が1 0 0 人以上の規模の事業所の場合には、3 カ月前の予告するか、または3 カ月分の予告手当の支払い、同時に政府の事前の許可が必要となります。さらに整理解雇された従業員に対し、勤続期間1 年につき平均賃金15 日分の補償金の支払が必要となります。
解雇時の一定期間前の予告または予告手当の支払については、日本の労働基準法2 0 条に規定される3 0 日以上前の解雇予告または3 0日分以上の解雇予告手当(平均賃金により算定する)と趣旨を同じくしますが、1 0 0 人以上の規模については、その期間と金額が日本の規定よりも厳しいものとなっていることに注意する必要があります(労働争議法25 N 条)。
■企業閉鎖
企業閉鎖をする使用者は、労働者数が5 0 人以上の場合には、6 0日前に政府に通知しなければなりません。また、失業する労働者には、前項に規定される人員整理の場合と同額の補償金が必要となりま
す(労働争議法25 O 条)。
なお労働者数が1 0 0 人以上の場合には、事前に政府から許可を得る必要がありましたが、ラジャスタン州法では2014 年11 月11 日の法改正により、100 人から300 人以上に変更となりました。
[ 退職金支払法(The Payment of Gratuity, 1972)]
退職金支払法は、労働者が退職する際に、仕事をしてくれたことへの慰労として支払う退職慰労金について規定しています。この法律は、労働者数が1 0 人以上の工場、鉱山、油田、大規模農場、港湾、
鉄道および自動車による運送業、会社・商店等に適用されます。退職金支払法が適用される企業では、5 年以上勤務した労働者が退職する際には、退職慰労金を必ず支払わなければなりません。
なお、労働者が死亡および障害により退職する場合には、勤続年数の要件にかかわらず退職慰労金の支払が必要となります。退職慰労金は季節的事業であるか否かによって区別され、以下のとおり計算されます。
・ 季節的事業でない企業の場合:半月(1 5 日)の賃金× 勤続年数(6 カ月以上1 年未満の期間は1 年とする)により算出
・ 季節的事業の場合:季節ごとに1 週間(7 日)の賃金功労金を支払わなければならない
なお、月給により賃金を受ける者に対しては、1 カ月を26 日として算出した金額を支払います(退職金支払法4 条)。

■その他の労働法

[1961 年出産給付金法(The Maternity Benefit Act, 1961)]
出産給付金法は就業中の女性が妊娠、出産により就業できない期間に、当該女性と生まれてくる子供の健康を維持するために設けられた法律です。従業員国家保険ESI(労災に当たるもの)対象者はESI に
てインド国家から恩恵を受けることができるため、本法律の対象外となります。
■給付授与の条件
対象者:直近12 カ月で80 日以上の就業がある女性当該女性は、雇用主に対して出産予定日の7 週間前までに産休を取る旨を報告する必要があります。
■産休
2 0 1 7 年4 月1 日、2 0 1 6 年改訂出産給付金法(The MaternityBenefit (Amendment) Act, 2016)が施行され、下記の内容で正式に運用されることになりました。
・ 第1 子および第2 子に関する産休日数が12 週から26 週に変更
・ 第3 子以降の産休は12 週間とする
・ 3 カ月未満の子供を養子にする場合および代理出産を委託している場合の産休休暇 12 週間
・ 50 名以の従業員を雇っている事業主は、託児施設を設置する義務があり、母親に対し、子供の世話のために、就業時間内に4回の訪問を許可する必要がある
・ 雇用主は、可能な限り在宅での勤務が可能になるよう配慮する
■給付金
医療手当(Medical Bonus)として1,000 ルピー支給します。
■解雇制限
産休期間中および復帰後3 カ月以内の解雇は禁止されています。妊娠中に解雇した場合であっても出産給付金付与の対象者となります。雇用主が付与をやめた場合、当該女性は法律に則って、付与の停止から60 日以内に会社に給付金を請求することができます。
[1947 年請負労働法(Contract Labour-Regulation & Abolition Act, 1947)
および1970 年請負労働(規制および廃止)法(The Contract Labour
(Regulation & Abolition) Act, 1970)]
請負労働者とは、派遣先の使用者(Principal Employer)との関係にかかわらず、特定の事業所の作業のために、請負人を介して雇用される労働者を言います。
請負労働者の労働条件や利益が、直接雇用される通常の労働者と同等になるよう規定し、恒久的な作業について請負労働者を使用することを禁止することを目的としています。
本法が適用される事業所は、下記のいずれかの条件に該当するものとなります。
・ 請負労働者を現在20 人以上※使用しているか、過去12 カ月の間に使用していた派遣先の事業所
・ 20 人以上※の請負労働者を雇用しているか、過去12 カ月の間に雇用していた派遣元の事業所
※ラジャスタン州では2014年11月11日の法改正により20名以上から50名以上となった
ただし、労働紛争法第2(S)条の第1 項から第4 項に規定されるノンワークマン(Non-workman)については、同法の適用除外となります。
派遣元の使用者は、適宜、定期的に賃金を支給し、不履行時には派遣先の使用者が立替払をしなければなりません。
また、就労先が工場法、賃金支給法、最低賃金法、労働争議法、従業員国家保険法、退職準備基金法、労働者補償法の対象事業所の場合には、直接雇用される通常の労働者と同様に請負労働者にもこれらの
法律が適用されます。
[2013 年セクシャルハラスメント法(The Sexual Harassment ofWomen at Workplace (Prevention, Prohibition and Redressal) Act,2013)]
セクシャルハラスメント被害にあった女性社員を救済することを目的とし、全企業が適用対象となります。
■セクシャルハラスメントとは
セクシャルハラスメントとは以下のいずれかに該当する行為を言います。
・ 体に触れること
・ 性的行為を要求すること
・ 性的発言
・ わいせつなものを見せること
・ その他不適切な行為
■セクシャルハラスメント委員会の設置義務
セクシャルハラスメント被害者を救済するための委員会を設けることが義務付けられています。委員会は最低3 名の構成員から成り、代表は女性であること、構成員の過半数は女性であることとされてお
り、代表者および構成員の任期は3 年までとなっています。社員が10 名以下と少ない場合や、女性社員が少なく社内委員会の構成が不可能な場合は、地方委員会へ処理を依頼することになります。
■会社の義務
会社が法律上行うべき義務として、以下が定められています。
・ 安全な職場環境を提供すること
・ セクシャルハラスメント防止のため、オリエンテーションや研修などの対策を、日頃から講じること
・ 訴えを受けた際に適切な対応ができるよう、場所の確保を行うこと
・ 訴えに適切な対応を取るべく、加害者や目撃者の出席を滞りなく行うこと
・ 被害女性が裁判所へ訴える場合は、適切な支援を行うこと
・ 社内委員会から提出される報告書を確認し、是正すること

■今後の労働関連法規の法改正予定

[1948 年工場法(The Factories Act, 1948)]
・ 女性労働者の夜間勤務 … 女性労働者の夜間勤務は禁止されていたが、交通と安全の確保を条件に夜間勤務を許可される可能性がある
・ 残業時間 … 四半期で50 時間までとされていた残業時間が、100 時間まで増加、また州政府の承認を得た場合は125 時間まで延長可能となる可能性がある
・ 食堂 … 工場内と同レベルの安全対策が義務化される可能性がある。食堂設置義務が社員250 名以上から200 名以上となり、避難所・トイレ・食堂の設置義務が社員150 名以上から75 名以上となる可能性がある
・ 危険業務の禁止 … 妊婦や障害者の機械作業が禁止される可能性がある
・ 有給休暇の付与時期 … 付与の時期が、現行の240 日後付与から90 日後付与に改正される可能性がある
[1948 年最低賃金法(Minimum wages Act, 1948)]
現在、最低賃金額は州によって対象労働者の種類や熟練度で金額の区分けがされています。今後は労働者区分が中央政府統一とする案が出ています。
[2017 年店舗および施設法(The Maharashtra Shops & EstablishmentAct, 2017)(改正済)]
ムンバイがあるマハラシュトラ州では現行の1 9 4 8 年店舗および施設法(The Maharashtra Shops & Establishment Act, 1948)が改正され、2018 年1 月1 日より、2017 年店舗および施設法(The
Maharashtra Shops & Establishment Act, 2017)が施行されました。
主な変更点は以下のとおりです。

■雇用契約と就業規則

インドでは、すべての従業員と雇用契約を締結することが定められています。また、原則として1 0 0 名(州により5 0 名とする地域もある)以上の従業員を雇用している事業所では、就業規則の作成義務
があります。小規模な日系企業でも、会社全体のルールとしての就業規則を作成しているケースが多くなっています。
[ 就業規則の作成]
対象となる事業者は労働局(The Labor Department)に就業規則(Standing Orders)のコピーを提出して、労働局委員会の認定を受けなければなりません。就業規則の作成を怠り、届出ない場合には罰則規定が適用されます(産業雇用(就業規則)法13 条)。
就業規則は、コピー提出の3 0 日後から適用されます。もしくは、労働局委員会に申出ることによって、コピーの受領から7 日後の適用とすることもできます(産業雇用(就業規則)法7 条)。
一部の州では、提出した就業規則が適用されるまでは、産業雇用(就業規則)法に規定するモデル規程(The Model StandingOrders)が適用されます。
就業規則が未提出の場合、上限5,0 0 0 ルピーの罰金が科せられ、届出をするまで上限2 0 0 ルピー/ 日が課金されます。法規制を遵守していない内容であると上限1 0 0 ルピー、是正しない場合は上限2 5 ルピー/ 日が課金されます(産業雇用(就業規則)法および産業雇用(就業規則)中央規則)。
制度上、ノンワークマンについては、就業規則や一部労働法の適用外となります。したがって、ノンワークマンについては、雇用契約書においての雇用者との関係、権利義務などを定めることになります。
作成した就業規則は、試用期間中の従業員、有期雇用者等についても同様に適用の対象となります。これらの従業員について、別途規程を作成する場合、もしくは一部の規定について別途定める場合には、
その旨を明確にする必要があります。
[ 労働条件の変更]
賃金、年金基金への拠出、諸手当、労働時間、休憩、交代勤務、服務規定などの労働条件を変更する際には、2 1 日前に通告しなければなりません(労働争議法9 A 条)。この事前の通告は、会社の人数規模にかかわらず必要となります。

インドの社会保険制度

■労働者補償法

1923年労働者補償法 “The Employee’s (Workmen’s) Compensation Act,1923”
この法律では、労働者の勤務中の負傷・傷病、障害、死亡の際の遺族への補償について規定されています。
本法の適用対象は、全ての事業所となります。本法の趣旨は、日本の労働基準法に規定されている労働災害時の労働者への災害補償と同様のものです。
従業員国家保険法 (ESI: Employees’ State Insurance Act)の適用となる企業、労働者については、労働災害時に、従業員国家保健法から保険給付がされますが、同法が適用されない企業については、企業が補償を行わなければならないため、特に製造業の多くでは、民間の保険に任意に加入しているケースが多くなっています。

■従業員準備基金および雑則法

1952 年従業員準備基金および雑則法(The Employee ProvidentFund and Miscellaneous Provisions Act, 1952)は、以下の3つから構成されています。
・従業員準備基金
(Employees’ Provident Fund Scheme, 1952(以下EPFという))
・従業員年金制度
(Employees’ Pension Scheme, 1995 (replacing the Employees’ Family Pension Scheme, 1971)- This Scheme further updated as on 01/10/2008(以下EFPという))
・従業員預託保険制度
(Employees’ Deposit Linked Insurance Scheme, 1976(以下EDLIという))
本法の趣旨は、従業員の退職後の生活の保障(EPF、EFP)と、勤務中の死亡の場合の遺族のための生活の保障(EDLI)にあり、事業主に対して、支払準備基金の積立を義務付けるものです。日本の厚生年金に相当する制度になっています。
■対象となる企業
・指定の180業種に該当し、雇用する従業員数が20名以上の会社
・50名以上の従業員を雇用する共同組合
実際には、ほとんどの企業がこの指定の180業種に該当することとなるため、20名以上の従業員を雇用する企業で適用となります。
EPF、EFP、EDLIは、EPF & MPとして包括的に加入するため、上記の要件に該当する企業、従業員は全てに加入しなければなりません。
■対象となる従業員
2 0 1 4 年9 月1 日の法改正により対象となる従業員の範囲が変更となりました。
上記の適用企業のうち、基本給が1 万5,0 0 0 ルピー/ 月未満(6,5 0 0 ルピー/ 月未満から変更)の従業員が、本法の強制適用の対象となります。基本給が月額1 万5,0 0 0 ルピー以上の従業員については、任意適用となります。
取締役については、当該企業から給与の支給がある場合は対象になります。ただし、取締役会など会議だけに出席し、その分の報酬のみが支給されている取締役に関しては、対象外にすることが可能です。
基本給が月額2 万1,0 0 0 ルピー未満の従業員については、高所得者については対象外となっています。
日本人駐在員については、2016 年10 月1 日の日印社会保障協定の発行に基づき、日本年金機構から発行される適用証明書があれば、条件により加入を免除されます。
※条件としては、赴任期間が5年未満。ただし、許可が下りれば期間の延長も可能。ただし、現地採用の場合は、対象とならないため、加入が必至
[ EPF 加入時の諸手続]
EPF 加入時の必要書類は、会社と従業員でそれぞれ以下のようになっています。
■会社の必要書類
・ 社名、住所
・ 支店住所(支店の登録の場合のみ)
・ 会社設立証明書(COI:Certificate of Incorporation)
・ 給与明細
・ 定款
・ 銀行情報
・ 法人PAN 番号
■従業員の必要書類
・ 氏名
・ 父親の氏名
・ 入社日
・ 基本給与額
・ Form 2
・ Form 11
・ Form 13
事業所登録または資格取得手続の際には、以上の書類を被雇用者積立基金機関(EPFO: Employees’ Provident Fund Organisation)に提出します。
書類提出後、約1 カ月で本店の場合にはメイン・コード(MainCode)、他州にある支店にはサブ・コード(Sub Code)が付与されます。登録が完了したのちに、毎月の給与からEPF 保険料のうち従業員負担分を控除し、翌月1 5 日までに会社負担分と合わせてEPFDepartment に納付、25 日までに申告します。
[ 保険料の算定]
保険料は、基本給に積立基金(EPF)、年金基金(EPS)、預託保険制度(EDLI)の制度ごとに定められた下記の保険料率をかけて算定します。
ただしインド人社員の保険料算定は基本給もしくは1 万5,0 0 0 ルピー(2 0 1 4 年法改正により6,5 0 0 ルピーから変更)のどちらかに対して保険料率をかけます。これは会社の方針により選択します。
[ EPF の受給]
EPF 対象の従業員が会社を辞める場合には、準備基金部分を一時金として受給する、あるいは転職先の会社がEPF 適用会社である場合には、それまでのEPF の受給権利を引継ぐの、いずれかを選択することになります。
一時金として受給する場合には、従業員の本人負担分と会社負担分の合算額を退職時に受給することができます。
8.3 3% の年金部分は、一時金とともに一括して受給する、もしくは別途、年金として受給することが可能です。インドの老齢年金受給権の発生は、58 歳からです。1 9 5 2 年従業員準備基金および雑則法の中で規定しているEPS の支給要件は、下記のとおりです。
・ 老齢年金:20 年以上勤務し、58 歳以降に定年退職する
・ 退職年金:20 年以上勤務し、58 歳以前に退職する
・ 短期労働年金:10 年以上20 年未満勤務し、退職する
・ 積立金の払戻:加入期間10 年未満で退職する

■従業員国家保険法

従業員国家保険法(ESI:Employees’ State Insurance Act)は、1948 年に公布されました。この法律は、賃金や所得獲得能力の損失に繋がる病気、妊娠、一時的または恒久的な身体障害、就業中の傷害
による死亡といった労働者にかかわる突発的な事故を補償するものです。
邦訳では「従業員国家保険法」とされていますが、日本の健康保険や国民健康保険とは異なり、就業中の傷病等を保険給付の対象としており、日本の労働者災害補償保険制度と同じ趣旨を持ちます。
日本の健康保険や国民健康保険のような私傷病を保険給付の給付事由とする保険制度は、インドにおいては任意で加入する制度となっています。
[ 対象者]
本法はもともと、電力を用い20 人以上の従業員を雇用している工場に適用されましたが、現在は、電力を用い10 人以上の従業員を雇用している工場、および電力を用いない20 人以上の従業員を雇用している工場に適用されます。
現在では、適用人数は週ごとに規定されております。
また、現在では、2 条11 項により20 人以上を雇用している店舗、ホテル、レストラン、試写会場を含む映画館、道路自動車輸送業、新聞社にも拡張されています。
一度本法が適用された工場は、後に指定された従業員数を下回った場合や、電力による生産プロセスを終了した場合でも、適用が継続します。
なお、前述の従業員数を超える工場であっても、鉱業、鉄道車両の車庫や、1 年に7 カ月未満しか稼動しない季節的な工場の従業員には適用されません。また、州政府、中央政府が運営する工場や施設で働
き、実質的に社会保障給付金と同等、もしくはそれ以上の賃金を受取っている労働者は、適用範囲から除外されます(従業員国家保険法1条)。
なお、適用の上限賃金は、現在1 カ月当たり2 万1,0 0 0 ルピーとなっています。
[ 対象地域]
本法は段階的に適用範囲を広げ、履行されています。現在は以下の州、連邦域で履行されています。
■州
ナガランド、マニプール、トリプラ、シッキム、アルンチャル・プ
ラデーシュ、ミゾラムを除くすべての州連邦域
デリー、チャンディガール、ポンディチェリー

[ 拠出]
本法が適用される企業の雇用者は、本法の規定に従って保険料の拠出を行う必要があります。企業が納付する保険料は、雇用者の拠出と従業員の拠出で構成されています。
現在の比率は従業員の拠出比率が賃金の4.75%、雇用者の拠出比率は従業員を雇用しているすべての期間において支払われた、あるいは支払われるべき賃金の0.75% となっています。
なお、デリー州では1 日当たりの平均賃金が50 ルピー以下(州によって異なる)の従業員は、拠出義務から除外されますが、雇用者はこれらの従業員についても拠出しなくてはなりません(従業員国家保険法39 条)。

 

2019年6月13日、雇用主の労災保険制度(ESI)の拠出率を4.75%から3.25%に、また従業員の拠出率を1.75%から0.75%に引き下げるという改定率を通知しました。変更および改訂されたESI拠出率は、201971日に適用されるものとなっています。

[ 拠出金の納付]
雇用者は、全労働者に対する雇用者の拠出金と、労働者の賃金から源泉徴収した拠出金を、翌月21 日までに納付する必要があります。
[ 拠出期間と給付期間]
下記のとおり、それぞれ6 カ月間の2 つの拠出期間と、それに対応した6 カ月間の2 つの給付期間があります。

[ 登録]
本法の適用会社は、雇用者、労働者ともに保険料の管理のために、登録手続を行う必要があります。
まず、それぞれの工場、店舗、施設についての情報を提供し、未払または支払済の拠出金を記録していくためのコード番号を取得します。
次に、本法適用工場、施設の従業員登録を行い、従業員の保険番号を取得します。
[ 運営]
従業員国家保護機構は、従業員国家保護法人(ESIC)という労働者、雇用者、中央政府、州政府、医療専門家と議会を代表するメンバーが属する法人が運営しており、この法人の構成員から構成された常
任委員会は、機構運営の執行部として活動します。
医療給付金の支給額に関係した事柄については、この法人に対して助言する医療給付金協議会も存在しています(従業員国家保険法3条)。
従業員国家保護法人はこの機構の運営のために、ニューデリーの本部事務所以外に2 9 の地域事務所と、ヴィジャヤワダ、ヴァドダラ、スーラト、ハブリ、プネ、ナグプール、コインバートル、マドゥライ、ティルネルベリ、ノイダ、バラナシ、バラックポールに12 の副地域事務所、国中に844 の地方事務所を有しています。
この機構の医療施設は、デリーとウッダル・プラデーシュ地域のノイダ以外では、州政府によって運営されています。そのほか、チェンナイのK.K. ナガー、コルカタ、 タークルプクル、ナガダのESI 病院もESIC によって直接運営されています。
[ 給付金]
本法は、大きく分けると、以下7 種類の社会保険給付金をカバーしています(従業員国家保険法46 条)。
・ 医療給付金
・ 罹患時の給付金
長期的疾患時の給付金
疾患悪化時の給付金
・ 出産給付金
・ 障害給付金
一時的障害を負った場合の給付金
終身的障害を負った場合の給付金
・ 扶養家族給付金
・ 葬儀費用
・ その他手当
リハビリ手当
職業的リハビリ・失業手当

■今後の社会保険関連法規の法改正予定

1952 年従業員準備基金および雑則法(The Employees’ ProvidentFund & Miscellaneous Provisions Act, 1952)の適用対象となる社員が、現行の給与1 万5,000 ルピー以下の社員から2 万5,000 ルピー以下の社員へと拡大される可能性があります。

日本人が駐在する際の留意点

■ビザの取得およびその他必要な手続き

[ 商用ビザ(有効期間:6 カ月~ 3 年間)]
インドに仕事で出張する場合には、商用ビザ(Business Visa)が必要です。有効期間は最大3 年ですが、当局の発給時の判断により短くなることがあります。ビザの更新は可能ですが、パスポートに残
存有効期間が6 カ月以上ある必要があります。なお、1 回の渡印で可能な滞在期間は180 日までです。
商用ビザの取得に必要な書類は、下記のとおりです。
・ 申請書
・ パスポートサイズの写真
・ パスポート(残存有効期限が6 カ月以上のもの)
・ 現地法人からの招聘状(Invitation Letter)
・ 日本法人からの推薦状(Recommendation Letter)
・ 手数料
[ 就労ビザ(有効期間:1 年~ 3 年間)]
インドにおいて就労する場合は、就労ビザ(Employment Visa)を取得する必要があります。就労ビザはインド国内においてのみ更新手続が可能です。
なお、就労ビザ以外のビザ(たとえば、商用ビザ)で入国し、インドで就労ビザに切り替えを行うことはできないため、注意が必要です。
また、インド国内で転職をする際には日本に一度帰国し、ビザの再申請が必要となります。
※5年目の更新手続は、日本のみで可能
就労ビザの取得に必要な書類は、下記のとおりとなります。
・ 申請書
・ パスポートサイズの写真
・ パスポート(残存有効期限が6 カ月以上のもの)
・ 英文の履歴書
・ 現地法人からの招聘状(Invitation Letter)
・ 現地法人身元保証書(Undertaking Letter)
・ 就労先の雇用理由書(Certificate of Non-Availability Skill)
・ 日本法人からの推薦状(Recommendation Letter)
・ 現地法人との雇用契約書
・ 現地法人の登記証明書(Certificate of Incorporation, COI)
・ 賃貸契約書のコピー
・ 現地法人の決算書
・ 会社の事業案内
・ 新規設立または事業継続に関するインド政府、またはインド準備銀行(Reserve Bank of India)の承認書
・ 前職の退職証明書(インドで就業経験のある方)
・ Form 16(インドで就業経験のある方)
※その他補足書類や領事面談など(該当する申請者のみ)が変更されることがある
なお、年間の所得が2 万5,000US ドルを超えない場合には、就労ビザの取得はできません。この所得はインドで支給されるものとされていますが、実務的には、インド以外の国で発生する所得が含まれるケースがあります。
たとえば日本において留守宅手当等の支給があり、これを含めて年間の所得が2 万5,000US ドルを超える場合には、ビザ取得の際に本における給与支給についての証明書を提出することで、ビザの取得
が可能になるケースがあります。実際の取得申請の際には、事前にインド大使館に、最新の申請要件等について確認することをお勧めします。
最近の傾向としては、上記の最低所得の規定など、実務的に就労ビザの取得が困難となっています。このような規定はインド人の雇用の確保を目的としているため、インド人で代替が可能な業務について
は、就労ビザがおりない傾向があります。したがって、ビザ申請の際には、インド人では代替が難しい業務である旨を明示する必要があります。

■商用から就労ビザへの切り替え

 インドに1 8 3 日を超えて赴任する場合には、就労ビザを取得する必要があります。就労ビザは、インド国内での取得および商用ビザからの切り替えができないため、日本国内で取得する必要があります。
[ FRRO 登録]
インド赴任後に駐在員が対応すべき事項としては、外国人登録FRRO:Foreigner Regional Registration Officers)、銀行口座の開設とPAN の取得が挙げられます。
外国人登録は、インドでの滞在期間が6 カ月を超える外国人が、入国後14 日以内に居住地の外国人登録事務所等で行います。登録後、登録証が発行されます。外国人登録に必要な書類としては、以下のものが挙げられます。
・ 外国人登録申請書
・ パスポートサイズの写真4 枚以上(外国人登録事務所によって異なる)
・ 住所証明(賃貸借契約書等)
・ 日本のパスポートのコピー
・ 就労ビザのページと入国日のスタンプのページのコピー
・ インドにおける雇用契約書(会社のレターヘッドと責任者のサインの記載が必要)
・ インドの雇用主発行のレター(登録者の雇用を証明するもの)
・ 学歴証明書
ただし、地域の外国人登録事務所によって、写真の枚数が異なる場合、外国人登録証発効後に警察での登録が必要な場合、オンラインで申請用紙を作成し申請しなければならない場合など、対応が異なりますので留意が必要です。
2017 年より、デリー準州、バンガロール、ムンバイ、チェンナイにおいて、FRROs が先行的に電子化され、窓口に行かなくても取得できるように変更されました。また2 0 1 8 年にはすべての州において適用となりました。FRRO の申請中には出国できないことにも注意が必要です。
同じく2018 年に改訂されたFRRO 申請遅延の罰金は以下です。
・ 到着から14 日以降3 カ月まで:2 万1,600 ルピー
・ 到着から3 カ月以降:5 万3,600 ルピー
[ PAN/TAN の取得]
外国人登録の登録証とPAN カードは、就労許可(ワークパーミット)の代わりとなりますので、インドで就労する際には取得が必要となります。

参考文献

・ インド大使館https://indembassy-tokyo.gov.in/
・ India Visa Onlinehttps://indianvisaonline.gov.in/visa/
・ インド従業員国家保険公社https://www.esic.nic.in/
・ インド大使館「査証料」https://www.indembassy-tokyo.gov.in/jp/visafees_jp.html
・ 社団法人日本化学工業協会「第26 回『海外化学工業労働事情調査団』調査報告書」2009 年2 月12 日
・ 木曽順子『インド開発のなかの労働者: 都市労働市場の構造と変容』日本評論社、2003 年
・ 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課編『海外派遣者労災補償制度の解説』労務行政、2003 年
・ 安間順、岡田有叶、小堀景一郎、山西健市『インドへの投資ガイドブック : 中小企業経営者のために』第一法規、2008 年
・ 藤井恵『海外勤務者の税務と社会保険・給与Q&A〈6 訂版〉』清文社、2018年
・ 島津明人『職場不適応と心理的ストレス』風間書房、2003 年
・ 奥村禮司監修『社会保障協定の申請・届出実務マニュアル : ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス』日本法令、2007 年
・ 島津明人「臨床心理学の最新知見(51)臨床心理学におけるストレス研究」『臨床心理学第9 巻第4 号』金剛出版、2009 年
・ 『海外勤務者をめぐる税務 : 海外勤務者・来日外国人の両面から解説〈平成26年版〉』大蔵財務協会、2014 年
・ The portal for statistahttps://www.statista.com/
・ 独立行政法人労働政策研究・研修機構
・ 「インドの投資環境と日本企業のインド進出における課題・将来性」日本政策投資銀行、2006 年https://www.dbj.jp/reportshift/area/singapore/pdf_all/s42japanese.pdf

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