経済環境
経済動向
ケニアは、東アフリカ地域で随一の経済発展を誇る国です。主要産業は紅茶や園芸作物などの輸出が盛んな農業、豊かな自然を背景に発達してきた観光業で、その他、製造業や金融もこの地域ではもっとも進んでいます。
早くから市場メカニズムを受け入れてきたことや、旧英国植民地であるため英語が公用語であること、海外出稼ぎ労働者が多いことなどから、対外的なつながりを重視する経済運営がなされてきました。人口は年間100万人ずつ増加しつづけており、2014年には約4千5百万人になりました。若年層人口のボリュームが厚く、人口ボーナス期が長く続くと予測されているため、さらなる経済成長が見込めるでしょう。
この地域はアフリカでももっとも地域経済統合への動きが盛んです。2001年にケニア、タンザニア、ウガンダにより結成された東アフリカ共同体(EAC:East African Community) は、2007年にルアンダ、ブルンジを加え、約人口1億7千万人(2014年)の大経済圏となりつつあります。ケニアは域内経済の中心的な国であり、ウガンダなど内陸国とアラブ諸国や環インド洋などの海外をつなぐハブとしての存在感も高めています。
2007年~2008年の選挙後の暴動「ケニア危機」がありましたが、2013年の総選挙が平和裏に行われたことで政情は安定的なものとなりました。しかし、内戦が続く隣国ソマリアを拠点とするイスラム原理主義組織「アル・シャバーブ」によるショッピング・モール襲撃事件などのテロが頻発しており、観光客や投資の足かせとなっています。今後の経済発展の鍵は治安回復と言えるでしょう。
■GDPと経済成長率
国内では「ケニア危機」、国際的にはリーマンショックがあった2008年に0.2%、翌2009年に3.3%に留まりましたが、それ以外は過去10年以上にわたり4.6%以上の高い成長率を維持しています。GDPの8割を占める民間消費が好調で、人口増に見合った内需の力強い拡大が牽引となっています。
GDPの25%を占めている農業は、生産量が天候に左右されやすく、紅茶やコーヒーなどは国際価格動向に影響を受けやすい不安定要素を持っています。また、主要産業の1つである観光業はテロの懸念により低調に推移しています。一方で、近年はインフラ需要の高まりによる建設業や、モンバサ港を中心とした運輸・倉庫業、携帯電話や電子送金の普及による金融業などが好調で、経済成長の新たな牽引力となっています。
一人当りのGDPは10年間で2.5倍になり、世界銀行の中所得国基準である 1,136USドルを越えました。中間層が部厚くなったことが旺盛な消費につながっていると言えます。しかし、ケニアでは半数近くが国際貧困ライン以下で暮らしていると言われており、経済成長とともに拡大した貧富の格差が、社会の不安定要素になっているとの指摘もあります。
【実質GDP成長率と名目GDPの推移】(単位:10億KSh、%)
※2015年はIMF予測値
出所:IMF「World Economic Outlook Database, October 2015」
【1人当たり名目GDPの推移】(単位:USドル)
※2014年、2015年はIMF予測値
出所:IMF「World Economic Outlook Database, October 2015」
■インフレ
21世紀に入ってからもケニアは高いインフレに悩まされてきました。ケニア経済の特徴として、石油などエネルギー資源の海外依存度が高いこと、国内製造業の脆弱さにより輸入消費財価格の変動が国内消費者物価を直撃すること、天候により生産量や価格への影響がもっとも大きい農業が主要産業であることなどがあります。
2007年末の「ケニア危機」以降は、社会的混乱に加えて、食料品価格と国際原油価格の高騰も重なり、2010年を除いて10%台の高いインフレが続きました。2011年に始まった「東アフリカ大旱ばつ」の影響も大きいと言われています。
しかし、2011 年~ 2013 年にIMFの支援を受けマクロ経済の立て直しに成功しました。天候の回復や国際原油価格の下落もあり、2013 年以降は5~6%台とケニア中央銀行が設定しているインフレターゲット内に落ち着いています。
【消費者物価の推移】(単位:指数、%)
※2015年はIMF予測値
※消費者物価指数:2000年を100とした指数
出所:IMF「World Economic Outlook Database, October 2015」
■財政
ケニアの財政収支は経常的に赤字が続いています。近年は経済成長とともに税収が増加しており、歳入は10年で4倍近くに拡大しました。しかし、それ以上に歳出が急増しており、プライマリーバランスは2006年赤字に転落しました。その後も財政赤字額は拡大、対GDP比率も2012年以降は5%を越えた状態にあります。
「ケニア危機」や、対イスラム原理主義組織へのテロ対策など、一連の治安関連支出が急増したことや、公務員給与が上昇を続けていること、インフラ整備のための財政出動が増えていることなど、構造的な課題や喫緊の対策費用まで原因は複合的です。
EACの経済統合への準備段階にある現在、ケニア政府にとって財政健全化は必達事項となります。公的債務の水準はすでに国内外あわせて2兆KShを越えており、IMFの警告を受けるレベルですので、根本的な財政構造改革が急がれるところです。
【財政収支の推移】(単位:10億KSh)
※2015年はIMF予測値
出所:IMF「World Economic Outlook Database, October 2015」
貿易
経済成長にともないケニアの貿易額は急増していますが、常に輸入額が輸出額を上回る輸入超過の状態にあり、貿易収支は経常的な赤字となっています。直近10年で、輸出額は倍増していますが、輸入額は3倍強にも伸びており、貿易赤字は拡大を続けています。
こうした傾向の背景には、石油・天然ガスなどのエネルギー資源の海外依存度が高いこと、旺盛な国内消費に対して国内産業が脆弱であるために輸入品に依存せざるを得ないこと、通貨安によって輸入価格が上昇して輸入額が膨れ上がっていることなどがあります。
[自由貿易圏、自由貿易協定]
ケニアはアフリカの中でも自由貿易志向が強い国の1つで、周辺国と共同した経済圏確立に積極的です。2010年にはEAC内の関税が撤廃され、域内貿易が活発に行われるようになりました。さらに諸制度の統一を進め東アフリカの統一経済圏を目指しているところです。さらに、エジプト、エチオピア、コンゴ民主共和国などを含む東南部アフリカ共同市場(COMESA)でのFTA締結への動きもあります。
また、EAC=EU間ではEPA締結交渉が進められており、2014年10月に合意されています。すでにEUへの輸出免税措置は前倒しで開始されており、批准・発効を待っている状態にあります。
【貿易収支の推移】(単位:10億USドル)
※通関ベース、2014年は実績推定値
出所:JETRO
[国別・地域別の輸出入]
再輸出も含む通関ベースでの2014年の輸出先は、隣国ウガンダが607億KShでトップです。同じく隣国タンザニアが427億KShで2位、ルアンダ、ブルンジを含めたEAC合計が1,237億KShで、輸出全体の23.4%を占めています。米国が382億KSh、で3位、次いで英国358億KES、パキスタン220億KSh、コンゴ民主共和国210億KSh、UAE 201億KShと続きます。EAC域内とコンゴ民主共和国など東アフリカ諸国、モンバサを起点とした環インド洋・アラブ貿易など、多様な輸出先があることが特徴的です。
輸入は、経済的なつがなりの深いインドが2,645 億KShでトップ。中国が2,486億KShで、以下、米国、UAE、日本、南アフリカ、サウジアラビア、インドネシアと続きます。輸入ではインド、中国、日本などアジアからが47.1%と全体の半数近くを占めています。また、UAEやサウジアラビアなど湾岸諸国、サブサハラ最大級の経済大国である南アフリカなどからの輸入も盛んです。輸出先と輸入元が大きく異なるものの、やはり多様な国・地域にわたっていることがわかります。なお、自動車や発電機など産業用機器を中心に日本からの輸入も伸び、2014年は第5位の輸入先となっています。
[品目別の輸出入]
輸出を品目別に見てみると、切り花などの園芸作物が971億KShでトップ。次いで紅茶が939億KSh、衣料品・アクセサリー289億KSh、コーヒー豆199KSh、たばこ類168億KShと続きます。主要産業である農業の花形輸出品である園芸作物、紅茶、コーヒー豆、たばこ類だけで輸出額の約半数を占めています。
衣料品・アクセサリーは、アメリカの「アフリカ成長機会法(AGOA)」の関税免除などの優遇制度により輸出加工区(EPZ)で生産・輸出されたものが多くを占めます。
輸入品に関しては、石油製品が2,926億KShでトップ、以下、産業用機械2,566億KSh、航空機・関連備品1,295億KSh、自働車1,017億KShと続きます。
エネルギー輸入依存度が高いケニアでは、従来より湾岸諸国を中心に原油を輸入してきましたが、東アフリカ唯一の製油所であるケニア石油精製所(KPRL)が2013年より操業停止となっており、精油された石油製品をすべて輸入している状況にあります。しかし、近年はウガンダやケニアで油田開発が進んでおり、今後は国内・域内での製油所建設なども含めて、供給体制が進むものと見られています。
また、産業用機械などの輸入が盛んで、今後もインフラ整備の活発化にともない好調に推移するでしょう。なお、2014年に航空機輸入が激増していますが、これはケニア航空がボーイング社(米)から旅客機を5機購入したことによるものです。
産業動向
ケニアの産業構成は、多くの開発途上国で見られる資源モノカルチャーや、低賃金の労働力を利用した労働集約型産業による製造拠点化とは異なる様相を呈しています。GDPに占める産業別割合は、第1次産業が 28%、第2次産業が 17%、第3次産業が 55%となっており、製造業を中心とした工業化が十分に進んでいないまま、第3次産業が発展するというユニークな段階にあると言えます。
ケニアの第1次産業の中で、農業はGDPの26.5%、労働人口の約6割を占め、農産品が主要輸出品の多くを占めているため、ケニアが農業国であることは間違いありません。
第2次産業においては、未熟ながらも軽工業やセメントなど中心とした製造業もこの地域においてもっとも発達していますし、インフラ整備による建設業も存在感を増しています。
また、近年は、第3次産業の発達が顕著で、経済成長にともなう人口増と中間層の購買力に支えられている卸売・小売業、携帯電話と自動送金システムの普及による金融業や通信業、モンバサ港を起点とした運輸・倉庫業などが成長産業として注目されています。しかし、ホテル・レストランに代表される観光業は中長期的に強みを持つ主要産業であるものの、近年は治安の悪化により大きく後退しています。
■農業
ケニアでは中央高地やリフトバレーを中心に、トウモロコシ、小麦、米などの穀類や豆類・芋類、サトウキビ、果物、綿花など多様な作物が生産され、牛や羊などの牧畜も盛んで、その多くが小規模農家による自給農です。さらに、20世紀初頭には紅茶やコーヒー、1980年代には切り花などの換金作物の生産が盛んになりました。
換金作物は農家に現金収入をもたらし、ケニアに外貨をもたらします。一方、必要な食糧が十分に生産されていない状況をもたらしており、ナイロビなど都市部での食糧自給率は大きく落ち込み、農村地域では2011年の「東アフリカ大旱ばつ」に見られるように大規模な飢饉が起きています。ケニア政府は灌漑設備など農業インフラの増強を進めており、進捗が注目されるところです。
[紅茶・コーヒー]
紅茶やコーヒーの栽培は、旧宗主国の英国や、交易面で関係が深かったインドとの資本・技術両面の交流の中、ともに20世紀初頭に始まりました。
アフリカの茶栽培は、肥沃な土地で気候条件が良い点に目を付けた英国人がケニアで開始したものです。現在ではウガンダ、タンザニア等にも広がり、茶の一大生産地となっており、ケニアの茶の生産量は中国、インドに次いで世界3位(2012年)です。従来は大規模プランテーションによるものでしたが、近年は小規模農家による生産も多く、作付面積の約6割を占めると言われています。
コーヒーはケニアコーヒー局(CBK: Coffee Board of Kenya)の公的な管理の下で生産されています。CBKはコーヒー業界の規則遵守とケニアコーヒーのブランドマーケティングを行っています。
[園芸作物(切り花、生鮮野菜)]
1970年代~1980年代にEUの支援のもと、日照時間が長いが標高が高く冷涼な中央高地でカーネーションやバラの栽培が始まりました。その後、良質の農薬が普及したこと、ケニア花農家組合が結成されて国際的な価格交渉力がついたこと、ナイロビ国際空港経由で欧州へのコールドチェーンが整備されたこと、生鮮野菜や果物などを含めた幅広い栽培が可能になったことなどにより、園芸産業はケニアの主要産業にまで成長しました。
輸出先は、世界の切り花マーケットをリードするオランダなど欧州が多いですが、2005年に切り花のハブを開業したドバイ経由でアジアへも出荷されるようになり、2014年は過去最高の4,286万トン/971億KShを記録しています。
なお、世界的にはコロンビアなど南米諸国、ザンビアやエチオピアなどの近隣国での生産も盛んになり、生産地・仕向地とも多様化が進んでいます。グローバルな競合状態は今後ますます厳しさを増すものと考えられます。
■縫製業
1980年代までのケニアの縫製産業は、小規模事業者が国内およびウガンダなど近隣諸国向けに生産をしていました。しかし、1990年代にはいると貿易自由化とともにアジアから安価な衣料品が大量に輸入され、国内縫製産業は大きく後退することとなります。
しかし、2000年に米国が「アフリカ機会成長法(AGOA)」による免税措置を講じたことで劇的な変化が訪れました。AGOAの特徴は、原産地規則が緩く、輸入原材料を使用しても優遇措置を受けることができる点にあります。そのため、紡績や織布といった川上産業が育っていないケニアでも、アジアの安価な生地を輸入して縫製産業のみが優遇措置を受けながら急速に生産拡大することとなりました。その多くはインドや中国、台湾などのアジア資本と現地資本の比較的規模の大きな合弁企業によるもので、米国市場向けのために輸出に特化した輸出加工区(EPZ)で生産したものです。労働集約型の縫製産業の成長によって4万人近い雇用が創出されたと言われています。
2015年にAGOAの延長(2025年まで)が決定したことで、縫製品は引き続き主要輸出品の一角を維持していくものと思われますが、生産コストがバングラデシュやカンボジアなどのアジア諸国にくらべて高く、AGOA頼みのケニア縫製業には課題も多いと言われています。
■観光産業
ケニアの観光産業は、GDPに占める割合が約 12%(2013年)と大きく、農業に次ぐ主要産業です。東アフリカの中でも、ケニアは長年もっとも観光に力を入れてきました。豊富な自然を生かしたサファリが日本では有名ですが、欧州から多くの旅客が訪れるインド洋沿岸のリゾートもサファリと並ぶ観光資源です。
欧州でのケニア観光人気が高いこと、英語圏であること、多様な伝統文化と自然による観光資源が豊富であることなどを背景として、21世紀のケニア観光は右肩上がりに成長を続けました。年間旅客者数は100万を突破、2007年には181万人になりました。翌2008年には、欧州財政危機の影響により落ち込みましたが、2009年から旅客数・観光収入ともに再び増加に転じます。
順調に回復を見せていたケニア観光産業ですが、2011年末に起こった「ケニア危機」による治安の悪化によって大きな打撃を受けます。さらに、2013年にイスラム過激派組織「アル・シャバーブ」によるナイロビのショッピング・モール「ウェストゲート」を襲うテロ事件が起き、その後もテロが頻発しています。一連のテロ事件を受けて、欧州諸国が渡航制限を実施していることもあり、2014年の旅客数はピーク時を25%下回っています。本格的な観光産業の復活のためには、実効性あるテロ対策という高いハードルを越える必要があるでしょう。
【海外観光客数の推移】(単位:千人)
出所:ケニア国家統計局 Economic Survey (2004~2015)
参考文献(経済)
・IMF
・ケニア共和国大使館
・農林水産省
・KPMG
・海外建設協会 支部通信 2014年4-5月号
・国際通貨研究所
・JETRO
「世界貿易投資報告」
・静岡産業大学
・京大アフリカセンター
投資環境
ケニアの投資環境 ~アンケートから見る~
■ビジネス環境の現状2016(アンケート)より
世界銀行と国際金融公社(IFC)が、2015年に「ビジネス環境の現状2016」を共同で発表しています。このアンケートから世界のケニアの評価を見ていきます。
ケニアのランキングは、総合順位では189の国と地域中108位(2015年版は136位)です。アフリカで経済発展が期待されている、南アフリカ(73位)、チュニジア(74位)、モロッコ(75位)などに比べて低く、エジプト(131位)、ナイジェリア(169位)よりも高いランクとなっています。
金融(株式)市場
ナイロビ証券取引所(NSE)は、イギリスの植民地時代にその全身がある長い歴史を持つ取引所で、東アフリカ最大、アフリカでは4番目の市場規模です。かつてはイギリスをはじめとした外国投資家が主流でしたが、近年の経済成長にともない国内投資家が増えています。2012年から2013年にかけて急速な株高となりましたが、2014年中盤をピークとして株価の下落傾向が続いています。市場時価総額は2016年2月現在で194億USドルとなっています。
また、東アフリカの経済統合の一環として、タンザニアのダルエスサラーム証券取引所、ウガンダ証券取引所、ルワンダ証券取引所との統合計画があり、2004年に東アフリカ証券取引所連合(EASEA)がナイロビに開設されました。
為替レート
ケニアの経済運営は基本的には自由主義的です。国内外の資本移動は原則的に自由で、為替は変動相場制をとっています。
近年は経常的にインフレ圧力が高く、経常収支と財政収支の双子の赤字が続いてきました。2011年11月に中央銀行は大胆な高金利政策に転じ、6%台で小幅に上下していた政策金利を18%にまで大幅に引き上げ、その後は段階的に引き下げました。政策金利の急速な上下にともない、ケニアシリングは急即な下落と上昇を経て比較的に落ち着いて推移するようになりました。しかし、2015年後半からは米国の金融緩和縮小にともない再びケニアシリング安基調となり、中央銀行は2015年に27ヶ月ぶりの利上げに踏み切り、11.5%(2016年2月現在)となっています。
なお、2016年1月24日現在の為替レートは、1USドル=100.87ケニアシリングです。
インフラ
世界経済フォーラムが行っている、「世界競争力レポート(The Global Competitiveness Report)2015-2016」によると、ケニアのインフラの総合評価は140カ国中63位です。モロッコ55位、南アフリカ59位に次いでアフリカではインフラが比較的整った国との評価です。
各インフラの評価は、道路60位、鉄道72位、港湾63位、空港49位、電力97位、固定電話130位、携帯電話122位となっています。
■鉄道
ケニアの鉄道は、イギリスの植民地時代に建設されてから1世紀以上たち老朽化していましたが、大きく刷新されようとしています。2013年11月に、インド洋に面したケニア第2の都市モンバサと首都ナイロビを結ぶ全長480キロメートルの新線の建設が決定しました。総工事費38億ドルの9割を中国の国営企業が受注し、2014年10月に着工、2018年の完成を目指しています。12時間以上かかっていたモンバサ-ナイロビ間の移動時間が4時間弱に大幅短縮されることになり、人やモノの移動の大幅増加、物流コストの大幅削減になると見られています。
将来は隣国のウガンダ、ルワンダ、南スーダンに延伸・接続する東アフリカ新鉄道計画もあり、内陸国と海外をつなぐ主要輸送路としての整備に大きな期待が寄せられており、東アフリカにおけるケニアの物流ハブとしての役割が一層強化されていくことになると言われています。
■港湾
インド洋に面したモンバサは東アフリカ最大の港湾都市です。ケニアのみならず、東アフリカ共同体(ケニア、タンザニア、ウガンダ、ブルンジ、ルアンダ)や南スーダン、コンゴ民主共和国などの内陸各国につながる貿易・海運の玄関として重要な位置を占めています。ケニア政府は、モンバサ港をよりダイナミックな東アフリカ物流ハブとして、「北部回廊」からインド洋へとつながる国際港湾として強化していくとしています。
すでにキャパシティーを越えていると言われるモンバサ港の貨物取扱量の増強のため、新規コンテナターミナルの建設が日本政府は円借款によって行われています。年間75万TEU程度のコンテナ貨物取扱量が、2016年までには120万TEUにまで引き揚げられることになります。また、「北部回廊」の起点としてモンバサ港周辺道路整備、隣接地での経済特区の整備も進められており、海運、陸運、生産拠点が一体整備されることによる投資環境の向上は非常に大きいと言えます。
■空港
ケニアには国際空港の他に多くのローカル空港があります。主要な国際空港は、ナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港、第二の都市モンバサのモイ国際空港、西部の中心都市エルドレッドのエルドレット国際空港、ビクトリア湖に面した第三の都市キスムのキスム国際空港です。
ケニアの国内・国際線航路利用旅客数はこの10年で1.5倍に伸びています。特に、ナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港は東アフリカ最大の空港で、ナイロビ中心街から16キロメートルほどに位置します。経済成長にともない利用者が急増しており、中国の政府借款によってターミナル拡張工事が進められています。
出所:世界銀行
■道路
ケニアには14,000キロに及ぶ道路があると言われていますが、舗装されている道路は主要幹線道路の一部に限られ、幹線道路でも未舗装の区間があります。舗装率は全体の1割程度とみられています。また、舗装状況も良好ではない場合が多く、保守管理に関する課題もあります。
一方、ケニアの物流の9割以上がトラックなどの道路輸送によるものですので、道路整備は物流環境を大きく左右します。ケニア政府はインフラ整備の重点項目として道路整備を進めています。
さらに、ウガンダ、コンゴ、エチオピアなどの内陸国にとってもケニアの輸送環境の向上は重要で、特に国際港モンバサを起点とする「北部回廊」は東アフリカの物流動脈となるものです。世界銀行と UNECA (国連アフリカ経済委員会)が中心となりドナー国の協力のもと、サブサハラアフリカ交通政策事業(SSATP: Sub-Sahara Africa Transport Policy Program)の一環として位置づけられ整備が進んでいます。
また、ナイロビでは人口の急増と経済成長による自動車の普及によって、交通渋滞が深刻な事態となっています。そのためケニア政府や、バスや鉄道などの大規模公共交通の導入、未接続の幹線道路の完成、高速道路の建設など、さまざまな方策で講じています。2012年には日本のODAによりナイロビ西部環状道路が完成し、渋滞の緩和に効果をもたらしたと言われています。
■電力
ケニアの一般家庭ではエネルギー源として灯油、薪、木炭が多く使われており、都市部では電化が5割近くにまで進んでいますが、農村部では一桁台留まっています。しかし、経済成長にともない電気の普及率は向上しており、電力需要が年率で5%以上の割合で増え続けています。ケニア政府は2030年までに電化率を70%に引き上げることを目標として、発送電設備の整備に取り組んでおり、今後はさらなる電気需要の増加が見込まれることになります。
もともと化石燃料を産出しなかったケニアでは、化石燃料による発電は3割強で、水力が約45%、地熱が約2割にもおよびます。水力発電は乾季にダムの水位が下がり安定した電力が得にくいため、化石燃料を輸入して発電したり、エチオピアなどから電力を購入したして補完しています。そのため電力コストが高く、需給は逼迫している状況にあり、官民あげての電力インフラ整備が優先事項として進められています。
ケニアのエネルギー事情の優位性はクリーンな代替エネルギーである地熱エネルギーにあります。地熱エネルギーが豊富な「東アフリカ大地溝帯」に位置するオルカリアでは、すでに3つの地熱発電所が稼働しています。また、地熱発電率を2030年までに30%にする計画のもと、日本のODAなどによる358 MWの発電能力を持つ新たな地熱発電所が2014年に稼働開始し、世界でもっとも地熱発電能力が増加した国となりました。
■通信
携帯電話はこの数年で爆発的に普及し73.8%の普及率(2014年)となっています。Safaricom、Telecom Kenya、Airtel、Essar Telecom4社により人口の9割以上のがカバーされていると言われています。Safaricomによるモバイル送金「M-PESA」が急速に拡大しており、既存の銀行口座を持たない新たな小口金融の利用層をターゲットとした新業態が注目されています。
インターネットの普及率は4割近くと東アフリカ地域においてもっとも高く、ケニア政府は2013年に「国家ブロードバンド戦略 (NBS)」を発表し、全国ブロードバンド・ネットワークの整備を行い、情報・知識集約型経済の基盤とするとしています。
出所:ITU (International Telecommunication Union)
出所:ITU (International Telecommunication Union)
規制とインセンティブ
■規制
ケニアは早くから経済の自由化志向で、外資に対する投資規制は非常に限られています。
[最低投資額]
外資が新規に投資許可証を得るための最低限度額は10万USドル以上です(投資促進法(Investment Promotion Act 2004)。ただし、輸出加工区(EPZ:Export Processing Zone)では最低額が設けられていません。
[規制業種]
以下、3業種のみが規制対象業種で、株式保有比率等に規制が設けられています。それ以外の業種では株式保有比率等の規制はありません。
※3業種においては、ナイロビ証券取引所へ上場する場合、外資による株式保有比率は最大が75%となります。それ以外の業種では規制がありません。
[土地の取得と保有]
無期限の土地保有はケニア人またはケニア資本に限られるため、原則的には、外国人または外国資本による土地の取得は、原則的にリース取引に限られ、リース期間は最長で99年です(土地管理法:Land Control Act)。
農地に関しても、大統領の承認が得られた場合にはリース取引ができるとされていますが、現実的には承認は得難いため取引は難しいとされています。
■投資優遇
2005年に「投資促進法」が施行され、外国資本による投資を促進することが定められています。ケニア政府は、ITなど技術知識集約型産業、探鉱など天然資源開発、農業振興、インフラ(上下水道、電力、通信、住宅等)整備など、様々な分野への投資奨励のために優遇措置を講じています。また、ケニア投資庁(KIA:Kenya Investment Authority)が設立され、ワンストップ・サービスセンターを設け、内外からの投資を促進すべく様々な支援を行っています。
ケニアにおける外国投資に対する優遇は、おもに輸出加工区(EPZ: Export Processing Zone)での優遇(所轄官庁:輸出加工区庁)、税金免除措置による優遇(所轄官庁:ケニア歳入庁:)があります。
[輸出加工区(EPZ: Export Processing Zone)]
EPZ進出には輸出加工区庁(Export Processing Zones Authority)によるライセンスが必要で、EPZ enterprises license、EPZ developer/operator licenseなど複数のライセンスがあります。一部(EPZ commercial license)を除き、下記の優遇措置を受けることができます。
EPZは、首都ナイロビ、ナイロビから25㎞のアティ川地域、モンバサの他、北部海岸地域やリフトバレーにもあります。
参考文献(投資)
・世界銀行
・世界経済フォーラム
・UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development
(国連貿易開発会議)
「An Investment Guide to Kenya」
・ケニア統計局(KNBS:Kenya National Bureau or Statistics)
「Economic Survey 2014」
・ケニア共和国大使館
・JETRO
「世界貿易投資報告:ケニア編」
「海外進出に関する制度 ケニア」
・外務省
・JICA
・総務省
・経済産業省
・東洋建設
・世界通信情報事情
・丸紅経済研究所
・野村総合研究所
・海外市場調査研究所
・アフリカビジネス振興ネットワーク
・一般社団法人 海外建設協会
・東アフリカ通商株式会社