インド進出にかかわる国際税務
■国際税務総論
■国際税務の必要性
「国際税務」が必要とされる理由は、大きくわけて次の二つです。
進出形態別における留意点
■拠点を設けずにビジネスを行う場合
■拠点を設置してビジネスを行う場合
しかし、支店の営業活動から発生した所得については、インドで外国法人の所得として課税され、日本においてはインド支店の利益を合算して法人税の計算が行われるため、支店の利益部分について、日本
とインドの両国で、同一の所得に対して二重に課税がされることになります。
このような場合には、本店所在地国における税務申告の際に「外国税額控除(詳細はP. ●参照)」の規定を適用することにより、二重課税となっている所得部分の税額に対して必要な調整を行うことになります。
になります(全世界所得課税)。
インドの内国法人の場合、インドにおいて課される法人所得税率は以下のとおりです。
国際財務戦略と国際税務
■資金還流にかかわる財務戦略
■支店から本社への利益還流
インド支店から日本本社へ利益を還流する場合、通常は支店の税引後利益を送金する形となります。この送金は、あくまで本支店間の資金移動という形であり、本社の損益には影響しません。国によって
は、支店利益の送金に対して現地国において課税されるケースがありますが、インドではそのような規制はありません。
送金の際にその年度の財務諸表の提示を求められるケースがあり、その際には現地の会計士に詳細を確認する必要があります。
■子会社から親会社への利益還流
日本の親会社側では、この配当金については「外国子会社配当益金不算入制度」の規定により、法人税額の計算上は益金不算入となります。
インド子会社から親会社に対して、経営指導料やシステム使用対価、ロイヤルティ等を支払うことがありますが、これらも親子間の取引を通じて実質的に子会社から親会社への利益還流が行われている形になります。
国際間での親子会社間取引については「移転価格税制」の対象となるため、これらの取引を行う際には、税務当局に対して取引価格の妥当性を証明できるよう、事前に根拠資料を揃えておく必要があります。
資金回収における留意点
■現地法人と支店の比較
また、現地法人が行う配当には法人税とは別に配当分配税(DDT)が課税されることになり、配当金額と実際の送金額に違いが生じることになります。
支店の設置については、資本金が必要ないため設置にかかるコストが少ない代わりに、下記の点について注意が必要です。
・ 外国法人としての高税率による所得課税
・ 本店所在地国との二重課税問題
・ 本社との取引価格の移転価格問題(P. ●参照)
以下、これらの事項について検証していきます。まず、海外法人の支店の場合、税務上はインドにおいては外国法人の一部、つまり外国法人として扱われることになるため、インドの内国法人(子会社による進出)と比較し、高い税率で課税が行われることになります。
課税所得金額を2,0 0 0 万ルピーとすると、実効税率は次のように算出します。
法人所得税額だけを見ると、税率差により子会社による進出が有利のように思われますが、留保した利益の還流を全体的に考慮すると、一概に有利とは言えないケースもあります。
たとえば、支店形態の場合は本社への資金還流を無税で行うことができます。しかし、子会社形態による進出で、税引後利益のすべてを配当により親会社に還流した場合には配当分配税が課税されるため、それを控除した残額が日本へ還流されることとなります。
・ 単位はルピー換算額と仮定
・ 支店の税額を控除する前の利益(税引前利益)は2,0 0 0 万、本店の支店利益合算前の税引前利益を4,000 万と仮定
・ 日本側の実効税率は30% として計算
支店から本店への送金の場合
■インド側における税額計算の流れ
支店の課税年度における課税所得を算出します。
[ 法人税額の算出] … ②
■日本側における税額計算の流れ
支店における税引後利益は、本店に送金されるか否かを問わず、本
店でも課税されます。日本側においては、全世界所得課税となるた
め、日本本店での国内所得金額とインド支店での国外所得金額を合算
します。
②で求めた税額は、全世界所得に対する税額であるため、二重課税
となっているインドでの納付税額を控除して二重課税を排除します。
計算については、まず「控除限度額」を算出し、外国法人税額とそ
の控除限度額とを比較し、いずれか少ない金額を納付すべき税額から
控除することになります。
つまり、日本で課される法人税額のうち、国外所得金額に対応する
部分の税額しか控除の対象とすることができないということです。
注意点として、日本の外国税額控除の税額控除範囲は「外国法人税
の額※」とされており、教育目的税は税額控除の対象には該当しない
ため、控除税額の計算上、これを含めない金額を控除することとなります。
より法人の所得を課税標準として課される税(法人税法69条①、法人税法施行令141
①)
子会社からの配当による資金回収
■子会社からの配当による場合(100%配当のケース)
■子会社からの配当による場合(80%配当のケース)
■外国子会社配当益金不算入
雑であることから、企業の海外投資促進を阻害する恐れがあるとして、2 0 0 9 年4 月1 日以降はこれに代えて「外国子会社配当益金不算入」という、配当自体を所得計算に組み込まない手法が用いられています。
※子会社が現地国において課された法人税のうち、親会社が受取った配当に対応する部分の税額を、日本で納付する法人税額から控除する方法
この手法が適用される対象は、内国法人(日本の親会社)が外国法人(インド子会社)の発行済株式等の25% 以上を、配当等の支払義務が確定する日以前に6 カ月以上、引続き直接に保有している場合
の外国法人(特定外国子会社等)です。
特定外国子会社等については特に制限はなく、タックス・ヘイブン対策税制で「特定外国子会社等」とみなされる子会社からの配当であっても、上記の要件を満たしていれば益金不算入となります(ただし、タックス・ヘイブン国に所在する外国子会社等については、一定の適用制限があります)。
益金不算入とされる金額は、配当等の額から、配当等に係る費用に相当する金額として配当等の額の5% に相当する金額(以下、「みなし経費※」という)を控除することにより、求められます。
※みなし経費について通常、国内の受取配当についても、その配当等を受けるために支出した費用については、配当等の益金不算入額から控除する形になっているが、海外からの配当についても、計算の事務負担等を考慮し、概算で5%という形になっている
結論として、1 0 0% の利益還流を行った場合には、支店からの送金が若干上回ることとなりますが、実際には発生した利益すべてを還流するケースは稀です。
現地での再投資金額を控除した残額を還流することとなるため、還流割合が下がれば下がるほど、子会社での配当分配税の負担が軽減され、現実的には子会社形態の方が有利になります。
第三国を通じた投資スキーム
■モーリシャスを通じた投資スキームの検証
インドとモーリシャスは歴史的な関係もあり、二国間投資においては有利な条項がいくつも定められています。その中の、「インド・モーリシャス租税条約」においては、税務上有利な以下のような条項が規定されていました。
・ モーリシャスの法人は、インドにおけるキャピタル・ゲインに対する所得税が免除される。つまり、モーリシャスにおいては、インド投資にかかるキャピタル・ゲイン課税は行われない
キャピタル・ゲイン条項の改正を含む、条約改正の主なポイントは
・ 一方の締約国の居住企業が発行する株式が譲渡された場合、当該一方の締約国は、譲渡者が居住者である場合のみ譲渡収益は非課税であったが、2 0 1 7 年4 月1 日以降に取得した株式の譲渡から生ずる収益に対して、譲渡者の居住性を問わず、課税するものとする
・ 2 0 1 7 年4 月1 日から2 0 1 9 年3 月3 1 日までの期間に発生したキャピタル・ゲインには経過措置が適用され、特典制限条項第2 7A 条の要件を満たした場合のみ、譲渡株式を発行する企業
の居住国の国内税率の50% で課税される。移行期間後は国内税率がそのまま課税される
■シンガポールを通じた投資スキームの検証
1994 年5 月27 日、インドはシンガポールとの間に二重課税回避協定を締結しました。前述のインドとモーリシャス間のDTAA と類似したこの協定は、二国間投資に有利な条項として、主に以下の点が
規定されています。
・ 締約国A に所在する企業から締約国B の居住者に対して支払われた配当金に関しては、締約国B においてのみ課税することができる。しかし、配当金が締約国A の法に照らし合わせて締約国A により課税可能である場合には、税は配当金総額の1 0%(受給者が2 5% 以上の企業の株式を保持している場合)もしくは15%(その他の場合)を超えないものとする
・ 締約国A の居住者による、締約国B における財産譲渡から発生したキャピタル・ゲイン(資本利得)は、締約国A においてのみ課税される
この改定により、シンガポールとインド間の二重課税回避協定は、現状、ある程度の条約濫用対策を盛り込みつつも、インドとモーリシャス間の二重課税回避協定によってもたらされるメリットと類似の効果を提供しています。
・ シンガポールにおける株式の譲渡益に対する課税の免除は、その株式の譲渡による所得が事業としての収入ではなく、キャピタル・ゲイン(資本利得)であるとみなされた場合にのみ適用される。証券取引を主たる事業にしている金融会社は、そもそもキャピタル・ゲイン(株式の譲渡益等)を目的としており、キャピタル・ゲインが「事業収入」として認識されるため、同規定を適用することができない
・ 会社は、租税条約の優遇規定を受けることを目的とした会社の方針を設定することはできない
・ 架空会社やトンネル会社など、経済実態のない会社は条約による課税の免除は受けられない。ただし、企業が以下の基準に一つでも適合する場合、架空会社もしくはトンネル会社とはみなされない
・ シンガポール認定の証券取引所に登録されている
・ キャピタル・ゲインの発生直前2期において、年間経費として200,000 シンガポールドルを消費している
これらの規定を盛り込む背景としては、租税条約の濫用と税金逃れを防止する意図があります。
・ シンガポール子会社に対して、被投資会社から支払われる配当に対しては、源泉徴収税(TDS)は課税されない。ただし、被投資会社から支払われた配当に対しては、シンガポールにおいて所得
税が課される
・ 被投資会社からシンガポール子会社へ支払われた配当は、一定の条件のもとに、シンガポール子会社の所得計算上、控除される
・ シンガポール子会社による日本親会社への配当に対しては、源泉徴収税はかからない
・ インド- シンガポール二重課税回避協定に基づき、条約濫用防止規定に抵触しないことを条件として、シンガポール子会社による被投資会社内の株式の移転については、キャピタル・ゲイン課税は適用されない。
・ 日本の会社が自社の株式をシンガポール子会社へ移す場合、シンガポールでは、日本の会社の管理下にあるキャピタル・ゲインについては課税されない
したがって、上記の条件下では、日本企業はシンガポール側では納税義務はほぼ発生しないことになります。ただし、日本側においては、日本の税法に基づいてキャピタル・ゲイン、インカム・ゲインに対して課税されます。
シンガポール経由の投資メリットの一つは、シンガポールはモーリシャスよりも多くの国と二重課税防止条約を締結しており、日本もその中に含まれている点です。そのため、日本とシンガポールとの間で
も、税務的に効率の良い投資スキームを作ることが可能です。タックス・ヘイブンへの監視強化で、シンガポールはOECD との間で透明性の向上には合意したものの、必要な国際協定に署名していない国・地域である「グレーリスト」に掲載されていました。しかしその後、OECD が定める新しい基準を盛り込んだ12 の税制上の国際協定のうちの9 つに署名したため、2 0 1 0 年に、国際基準をおおむね採用した国を掲載する「ホワイトリスト」に分類されました。
国際税務の個別論点ー租税条約
■租税条約
いる国内法に優先して適用されることになります。つまり、国内法において「課税」とされていても、租税条約において「非課税」とされている場合には、「非課税」として取扱うことができます。
しかし、租税条約を適用することにより、国内法より不利になってしまう場合には、国内法の規定を優先適用することも可能であり、これを「プリザベーション・クローズ(Preservation Close)」と言います。
■OECDモデル条約
その後、欧州経済の復興に伴い1 9 6 1 年9 月、OEEC 加盟国にアメリカおよびカナダが加わり、新たにOECD が発足しました。日本は1 9 6 4 年にOECD 加盟国となりました。以下は、主なOECD 加盟国です。
今後、日本企業のグローバル化に伴い、日本の親会社との直接取引だけでなく、日本以外の海外子会社とインドの子会社との間で取引が行われることも想定されます。
その場合には、日本とインドで締結されている租税条約ではなく、その海外子会社の所在地国と取引先国との間で締結されている租税条約の内容も把握する必要があります。
■日本とインドとの租税条約
・ 相互間におけるPE の定義
・ 居住性についての定義
・ 所得帰属についての定義
・ 相互間における配当にかかる税率
・ 相互間における利息の収受にかかる税率
・ 相互間における短期滞在者免税規定
・ 二重課税排除についての取り決め(相互協議)
以下は、日本とインドとの間で締結されている租税条約で規定されている税率となります。「限度税率」という形をとり、これらの税率を超えない範囲において、一定の国際間取引を行う際に課税されることとなります。
■取引事例による検証
インド子会社は、インドにおいて親会社から委託されたインド国内の顧客に対する営業活動を行っており、その対価として受注に応じて親会社からコミッションを受取ります。
インド子会社がインドにおいて受注を取った場合、販売契約は日本の親会社とインドの顧客との間で直接行っています。この場合、親会社が子会社に対して支払うコミッションは日本で源泉課税の対象となるのでしょうか。
源泉課税の有無の判定には、まず、居住性の判定が必要となります。子会社は日本に所在していないため、日本の税務上は「外国法人」として取扱われます。外国法人については、日本国内に所得の発生源泉のある所得にのみ課税が行われます。
では、このコミッションの発生源泉はどこにあるのでしょうか。営業活動という役務提供取引であり、実際の営業活動がインド国内で行われていることから、所得の発生源泉はインドにあると考えられます。よって、インドの国内源泉所得となり、日本においては国外源泉所得となります。日本における課税は国内源泉所得のみであるため、このコミッションに対しては、日本で源泉徴収の必要はありません。
これは、日印の両国間において技術上の役務提供を行った場合には、それぞれの国において課税することができるというものです。B社はインド法人ですから、当然インド国内で収入として課税がされますが、この条約の規定により、取引の相手国である日本でも源泉課税がされることになります。
この技術上の役務提供については、租税条約条文上の定義はありますが、実務上は具体的にどういった取引がこれに該当するか不明確部分も多く、ケースバイケースで検証を行う必要があります。
また、日本とアメリカについても、租税条約において「技術役務提供」の規定がないため、日米間でも源泉徴収の対象とはなりません。
問題となるのは、資本関係のある会社間でこのような取引が行われた場合です。日印間の租税条約における「技術役務提供」の規定があるため、日印間で直接取引を行わず、第三国を通すことにより源泉徴収を逃れることができます。
しかし、個別取引上は法的に問題がなくても、一連の取引を通じて「租税回避」の意図がある場合は、国際的租税回避行為とされます。税務当局から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。
ただし、日本とインドの間で締結されている「日印租税条約」では、この利息に係る源泉税について、お互いの国が10% の範囲内での課税を行うという取り決めがされています。
なお、源泉徴収された税額については、外国税額控除の規定により、本国で納付すべき税金から支払った税額を控除することができます。
PE認定課税
■PE認定課税とは
しないというのが原則です。
このPE の範囲については、各国の国内法およびインドなど投資先との租税条約等で、おおまかな例示がされています。
しかし、法的にPE を有していない場合であっても、実態としてインドにおいて所得が発生しているとみなされる場合には、インド側で所得に対する課税権が発生することになります。これを、「PE 認定課税」と言います。
PE 認定課税のリスクは、そもそも会社側は所得発生の認識がない状況下で税務申告等を行っているため、もしPE 認定課税が当局より行われた場合には、必ず二重課税の問題が生じるという点です。
PE の定義については、定めがありますが、その適用範囲については具体的、かつ明確に定められてはおらず、各国の税務当局の判断に基づくものです。最悪のケースでは、インド側でPE として認定され課税がされたにもかかわらず、日本側ではPE として認定されず、二重課税の調整ができないということも想定されますので、注意が必要です。
■PE認定課税の例
・ 駐在員事務所を設けている場合、本来は禁止されている営業活動を行っているものとみなされ、これをPE(親会社の支店)と認定され、発生したとみなされた利益に対して課税が行われるケース
・ 日本企業がインドに子会社等の関係会社を有している場合に、その関係会社が行っている業務が実質的に日本企業が行うべき行為(親会社名での契約代理行為など)である場合に、子会社を独立した事業体ではなく日本親会社の支店とみなされ、インドにおいて課税が行われるケース
BEPS防止措置実施条約(「MLI」)
■BEPS防止措置実施条約とは
BEPSとは、Base Erosion and Profit Shifting (税源浸食と利益移転)の略称になります。OECDでは、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題に対処するためにBEPSプロジェクトを立ち上げました。このBEPSプロジェクトでは、G20要請により策定された15項目の「BEPS行動計画」が提案されています。詳細は下記URLをご参照ください。
日本 国税庁 BEPSプロジェクト
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/beps/index.htm
次にBEPS防止措置実施条約とは、英語でMultilateral Instrumentであり、正式名称は下記の通りです。
The Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting
(税源侵食および利益移転を防止するための租税協定関連措置を実施するための多数国間条約)
Multilateral Instrument(以下MLI)とは、上記で述べたBEPS行動計画による変更を効率的に実施するために、既存の租税条約(現在3,000以上ある)を一挙に修正・改正することを目的とした概念になります。その国において、MLIの効力があるのかについて事前に確認することも重要ですが、MLIは既存の租税条約に取って代わるものではなく、租税条約を解釈するに当たり、MLIと合わせて読み取ることが必要とされています。
国際税務の世界では、MLIという単語がいきなり出てくるため、上記のような背景を理解しておくことが必要です。
MLIの効果は租税条約締約国の両国がMLIに批准しているか否かが焦点となりますが、インドと日本においては、下記の流れになっています。
【MLIへの署名日】
1. 2017年6月7日 両国がMLIに署名
【MLIの効力発生日】
批准書の寄託から3ヵ月を経過する日を含む月の翌月1日に効力を有する
2. 2018年9月26日 日本が批准書の寄託 2019年1月1日より効力発生
3. 2019年6月25日 インドが批准書の寄託 2019年10月1日より効力発生
【MLIの適用開始日】
源泉徴収される租税については、MLIの効力を生じる日以降に開始する課税期間の初日以降に発生する支払いまたは貸記額に対して適用される
その他の全ての租税については、両国においてMLIの効力が生じた後6か月以後に開始する課税年度以後
4.2020年1月1日・2020年4月1日 日本にて適用開始
5.2020年4月1日 インドにて適用開始
■MLIと代理人PEリスクの高まり
近年インドでは、このMLIが代理人PEリスクに影響を及ぼしていると言われています。
これは、上記で記載したように2020年4月1日よりインドにおけるMLIの適用開始が始まったことに影響を受けております。
具体的には、MLI第12条の「コミッショネア契約およびこれに類する取り決め」が日印租税条約に適用されるため、ビジネスモデルや契約書関連を改めて精査する必要性が出てきました。
MLI第12条と適応する租税条約第5条7項の詳細は下記のように記されています。
a)インドにおいて当該企業に代わって契約を締結する権限を有し、かつ、その権限を反復して使用すること;または
b)当該者は、インドで、物品又は商品の在庫を反復して保有し、かつ、当該在庫により当該企業に代わって物品 又は商品を規則的に引き渡すこと;または
c) 当該者はインドで、専らまたは主として当該日本企業自体のためまたは 当該企業及び当該企業を支配し、当該企業により支配され若しくは同一の共通の支配下に当該企業と共に置かれている他の企業のため、反復して注文を取得すること
上記の内、a)については下記のMLI第12(1)条の影響を受けることとなります。
一方の締約国内において企業に代わって行動し、そのように行動するに当たって、反復して契約を締結し、または当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果すもの。また、これらの契約が次のいずれかに該当する:
a)当該企業の名において締結される契約 ; または
b)当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産につき、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約 ; または
c)当該企業による役務の提供のための契約
上記の影響により、インド法人の駐在員が日本法人とインド企業間での契約の締結に当たり主要な役割を果たしている場合、4月1日以降より日本法人はインドに従属代理人の活動による代理人PEを形成することが可能となりました。
従って、マーケティング支援サービスやコミッショネアビジネス等においては、MLIの適用開始後(2020年4月1日以降)はインド税務当局よりPE認定という形でチャレンジされる可能性が高くなってきているため、事前の対策が必要となります。
具体的な対策としては、そもそものビジネスモデル自体を再検討することやグループ会社間またはグループ会社と駐在員間での契約書のレビューを行い、税務当局よりチャレンジされる想定し、事前の対策を講じることが必要になってきています。
外国税額控除
■インドの税務調査の特徴
また、勝訴率が高いことは、これらの課税が通ってしまうと今後の海外からのインドへの直接投資に悪影響が出ることを司法当局も危惧しているためと想定されます。ただし、インドでは訴訟を行った場合、判決が確定するまでに長期を有するため、通常は、訴訟は避けるべきであると言われています。
■税務関連の紛争処理
タックス・ヘイブン対策税制
■タックス・ヘイブン
近年のアジア圏の経済成長には目を見張るものがあり、日系企業の進出件数も年々増加しています。特定の国だけではなく、アジア圏の複数国に拠点展開している企業などは、各国の海外子会社を統括するため、シンガポールや香港に地域統括会社(RHQ:Regional HeadQuarters)を設置して活動するようなケースが多く見られます。シンガポールや香港は、タックス・ヘイブン(軽課税国)と呼ばれ、所得に対する税負担が他の近隣諸国に比べて低く、これらの国に利益を集約させることにより、グループ全体の実効税率が低くなります。
インドへの投資においても、日本からの直接投資ではなく、地域統括会社を通じて孫会社化して管理を行うケースが近年多く見られます。
シンガポールや香港に統括拠点を設置することにより、各子会社から集約した利益を、最大限税制のメリットを活かして留保することが可能となります。
しかし、この地域統括会社が、日本側の「実体のないペーパーカンパニー」として税務当局により認定された場合には、その地域統括会社に留保されている利益は、日本側の所得と合算して、日本の法人税が課税されることになります。これを、「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」と呼びます。
■タックス・ヘイブン対策税策
つまり、日本では会計上「収益」が認識されていないにもかかわらず、税務上で「益金」を認識することにより、海外の留保所得について日本で課税をする制度です。
インドにおける国際課税救済手続き
■インドの税務調査の特徴
インドでは非常に強引な税務調査および課税が行われていると言われており、更正処分等を受けた後、ほとんどの企業がインド国内で訴訟を提起し、多くのケースで納税者が勝訴しています。インドは、アメリカや日本などの諸外国と比べると、納税者が国内訴訟を起こして勝訴できる確率が高いと言われています。これは、インドの税務当局が、裁判になれば覆されるリスクが高いことを覚悟の上で、相当非合理的で強引な課税を行っていることが理由と考えられます。
また、勝訴率が高いことは、これらの課税が通ってしまうと、今後の海外からインドへの直接投資に悪影響が出ることを、司法当局も危惧しているためと想像できます。ただし、インドで訴訟を行った場合は判決が確定するまでに時間を要するため、通常は訴訟を避けるべきであると言われています。
■紛争解決機構
比較的高い経済成長が続くインドでは、近年、多国籍系企業の移転価格課税やPE 課税など、国際取引に対する課税が厳しさを増しており、移転価格課税だけで毎年数百件が更正課税されています。多くの納税者は課税処分に納得せず訴訟を提起しており、裁判所の抱える税務訴訟案件が山積みになっています。
このような状態を打開し、訴訟に依存せず納税者を救済する手段として、インドの課税当局である直接税中央税務(CBDT:CentralBoard of Direct Taxes)が2009 年11 月に創設したのが、紛争解決機構(DRP:Dispute Resolution Panel)と呼ばれる制度です。紛争解決機構はデリー、ムンバイなど主要8 都市に設置され、各紛争解決機構には3 名のパネリストが任命されますが、いずれも各地の所得税務局長が兼任しています。
納税者は、税務調査を経て税務当局から更正案を受取った後、課税処分を受け入れる前に、紛争解決機構に異議申立を行うことができます。紛争解決機構は、納税者の更正案受取から9 カ月以内に結論を出し、それに基づき税務調査官は最終的な課税処分を決定します。
紛争解決機構が抱える問題点として関係者が指摘しているのは、主に以下の2 点です。
紛争解決機構のパネリスト3 名はすべて所得税務局長で占められており、独立性と公正さを欠いた当局寄りの制度との批判が高まっています。
紛争解決機構設置の起因となった移転価格課税を取扱うには、国際取引に係る価格や利益率の妥当性に関する専門的な知識や経験が必要となります。
しかし、パネリストに任命される地方の税務局長の大部分はそのような専門的経験を有しておらず、パネリストとしては不向きな人材であると指摘されています。また、パネリストは所得税務局長としての本来の仕事との兼務である上に、1,000 件を超える申請案件に対し9カ月以内に結論を出さなければなりません。そのため、ほとんどが新たな展開がなく、更正案のまま最終結
今後、紛争解決機構が紛争解決機関としての信頼を得るためには、専門的能力のある公正な立場のパネリストを任命するなどの措置が必要だと言われています。
■税務関連の紛争処理
ADR は、納税者、税務調査官、紛争解決機構の3 名のパネリストの3 者によって行われ、税務調査官がその原処分案を提出してから10 カ月以内に終了します。ADR は税務当局に対して拘束力を持つため、ADR で決済された判決に対して上訴を行うことができません。
ただし、企業がADR 判決に対して異議がある場合は、国税上訴裁判所(ITAT:Income Tax Appellate Tribunal)への上訴が可能です。
インドにおけるBEPS防止措置実施条約(「MLI」)
参考文献
・ “India Tax Guide 2016/2017”https://www.pkf.com/media/10028424/india-tax-guide-2016-17.pdf
・ Neil Benjamin Edmonstone Baillie “The Land Tax Of India : According ToThe Moohummudan Law” Smith, Elder, Co., 1873
・ PwC 税理士法人編『国際税務ハンドブック〈第3 版〉』中央経済社、2015
・ Income Tax Department Government of India website 所得税率一覧, 2017http://www.incometaxindia.gov.in/charts%20%20tables/tax%20rates.htm