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第10章 インド-国際税務

目次

インド進出にかかわる国際税務

国際税務総論

[内需から外需へ]
 戦後、日本経済は拡大の一途をたどり、世界有数の経済大国となるまでに成長しました。日本経済の発展に伴い、日本企業は内需だけではなく外需を獲得すべく海外投資を積極的に行いました。世界においても、経済のボーダーレス化が進んでいく中で、もはや国内だけで事業を行う企業は少なくなりました。このような時代背景に伴い、国際税務に関する問題も多くなり、これらの問題が発生する度にさまざまな規制が設けられてきました。
■外国税額控除 1953年~
 まず問題となったのは、国際間の二重課税です。この問題は、戦後復興期の景気に沸く高度経済成長の中で顕在化しました。天然資源のない日本はあらゆる物を輸入しなければならなかったため、効率的に買付けができるよう海外に拠点を設け、駐在員を派遣するようになりました。この海外拠点及び駐在員について、外国で所得が発生した場合には、その国において税金を納めることになります。しかし、日本企業であれば外国で発生した所得に対して、日本においても税金が課されるため、同一の所得について二重に課税されるという問題が生じました。
 この二重課税に対応するため、1953年に法人税法の改正により「外国税額控除」の規定が設けられました。これは、二重課税が発生した場合に、日本企業が外国で支払った税金を日本で納めるべき税金から控除することが出来るというものです。
 その後、日本の高度経済成長は約20年間続き、60年代後半にはGDPが世界第2位になるほどの急成長を遂げました。日本の国際的地位の向上に合わせて事業を拡大した日本企業は、これまで以上に海外へと目を向けるようになります。
■タックスヘイブン対策税制 1978年~
 日本企業が海外へ目を向けるようになったところで問題となったのは、軽課税国(いわゆる、タックスヘイブン国)を通じた租税回避という問題です。当時から現在に至るまで、日本の法人税率は実効税率ベースでアジア諸国の中でも群を抜いて高税率となっています。この高い租税負担を回避するために、日本企業は軽課税国に積極的に投資を行い、当該軽課税国に利益を留保するというスキームを構築しました。具体的にはバハマ、ケイマン諸島、シンガポール、香港などを通じた取引が利用されていました。
 これらの軽課税国を通じて取引を行い、利益を留保することにより、企業グループ全体の租税負担を軽減することができるため、多くの日本企業はこぞってこれらの国に会社を設立し、資金・利益を留保するようになりました。このような目的で設立された会社の多くは事業実体がなく、登記上のみの法人(いわゆる、「ペーパーカンパニー」)であるため、比較的容易にこのようなスキームを取ることが可能でした。
 このように、軽課税国の「ペーパーカンパニー」に利益を留保し、日本と海外との税率格差を利用した税負担の軽減を図る企業が増えたため、1978年、軽課税国における関係会社を通じた取引を規制する制度として「特定外国子会社等の留保金額の合算課税制度(いわゆる、タックス・ヘイブン対策税制)」が制定されました。タックスヘイブン税制とは、日本企業が軽課税国に拠点としての実態のない法人を設立した場合、その法人が稼得した所得については、その日本企業の所得とみなして日本で課税されるという制度の事を言います。2016年、各国要人等の軽減税率国を利用した利益留保行為について、パナマにある法律事務所が情報を公開したことで話題となりましたが、これはまさにタックスイヘブン税制が絡む問題といえます。
■移転価格税制 1986年~
 更に日本企業の国際化が進むと、賃金格差を利用した低コスト化を図るため、日本から海外への製品の輸出ではなく、海外で生産した製品の輸入・輸出販売といった、「輸出」から「現地生産」へのシフトが強まり、世界各地に工場を設立することによる事業の効率化が図られました。海外での事業活動が活発になるにつれて、国際間での取引も増え、国内だけでなく海外で発生する利益額も年々増加してきました。
 そこで問題になったのは、やはり日本での高税率負担でした。税負担の軽減を図りたい企業側では、海外関係会社との間で材料及び製品などの取引価格を操作することにより、本来日本で発生する利益を、低税率の海外へ移転し、意図的に租税を回避するスキームを構築するといった事も発生してきました。
 このような国際間での所得移転に対処するため、企業グループ内での国際間取引につき、第三者間での取引と同等の価格設定を要求する制度が設けられました。これが1986年に制定された「移転価格税制」です。
■過少資本税制 1992年~
 日本はバブル期に入ると、国内から国外への投資も活発になる一方、ジャパンマネーを狙って、多くの外資系企業が日本市場に参入してきました。日本で事業を行う外資系企業の資金調達の方法として「出資」または「借入」が考えられます。
 出資に伴う配当は法人税法上、損金となりませんが、借入に伴う利息は法人税法上は損金となることから、資金調達の方法として「出資」を少なくし、「借入」を多くすることにより所得の圧縮を図る租税回避行為が問題となりました。これに対処する措置として、1992年に「過少資本税制」が制定されました。過少資本税制とは、借入金に係る利息の金額に閾値を設けて、一定金額以上を損金不算入とする制度です。
 企業活動のグローバル化に伴い、日本における国際税務の規定の整備は行なわれてきました。企業は事業継続・拡大のため、より効率的に資金を運用すべく租税負担の軽減を図ります。しかし、これが度を過ぎると課税当局から指摘を受け、それを規制する制度ができるという歴史が繰り返されてきたのです。「外国税額控除」が制定されてから、25年後に「タックス・ヘイブン税制」、その8年後に「移転価格税制」、更に6年後に「過少資本税制」と、企業の国際化と法整備は連動した動きをしていることがわかります。
 今後、日本企業は、人口減少による需要減退、デフレ、円高といった課題に対処するため、海外に事業をシフトせざるを得ない状況にあります。国際間取引がますます増えていく時代に入り、関連する税制度を理解する重要性もまた増してきているのです。

 

■国際税務の必要性

「国際税務」には、国際租税法や国際取引課税法といった法律があるわけではなく、二国間で行われる取引について、当該二国間で取決めた租税条約とそれぞれの国における税制を比較・検討することを総称して「国際税務」といいます。 

「国際税務」が必要とされる理由は、大きくわけて次の二つです。

・国際間での二重課税の排除
・各国における課税権の確保(租税回避行為の防止)
 すなわち、企業が国際取引を行い、一つの課税所得について日本と相手国の両国で課税されれば、企業の経済活動そのものにも影響を与えます。企業活動に影響がでないような配慮が必要となるため、二重課税の排除が必要になります。
 その一方で、完全に自由な企業活動を認めてしまうと、企業が租税回避行為を行う可能性が出てきます。各国にしてみれば、税収の確保は国益につながるため、適正に税収を確保し、租税回避はできる限り防止しなければなりません。
 企業側では、国際間での事業運営に関連する国際税務を理解し、課税リスクに備えることにより、各国の税務当局からの指摘を避け、不要な追徴課税・二重課税を防止する対策を図っていく必要があります。

 

 

進出形態別における留意点

■拠点を設けずにビジネスを行う場合

 インドとの取引を開始する場合に、インド国内に特段拠点を設けずに輸出販売等を行う場合であっても、その取引に付随して課税問題が発生します。
 インド国内に恒久的施設(PEPermanent Establishment)が存在しない場合には、基本的にインドにおける課税は発生しないことになります。しかし、たとえば社員が長期間インドに滞在し、販売製品の保守・サポートを行っているなど、実質的に拠点を設けて営業活動をしているとインドの税務当局に認定された場合には「PE認定課税(詳細については後述)」という形でインドにおいて課税されるケースがあります。
 また、取引内容によっては対価の収受の際に源泉所得税が課されることもあるので注意が必要です。インドとの取引によって、日本国内の会社がインドで源泉所得税が徴収される場合には、日本国内の会社が、インドでPAN(税務番号)を取得することによって、軽減税率が適用されます。ただし、PANを取得した場合には、当該会社は毎年インドで確定申告を行う必要があります。  

■拠点を設置してビジネスを行う場合

 インド国内に活動拠点を設けてビジネス展開を行っていく場合における、それぞれの進出形態ごとに関連する税務規定を検証していきます。
駐在員事務所を設けて活動する場合
 駐在員事務所を設けて活動を行う場合は、インドにおける法人所得税は発生せず、通常費用のみの計上が行われます。また営業活動も不可であるため、現地法人が被るような大きな税務リスクが生じることはないと考えられます。
 ただし、納税が発生しない場合であっても、毎決算期ごとに税務申告書を作成し、法定期限までに提出する必要があります。また、駐在員事務所で発生した損益については、会計上、日本の損益計算に取り込まれる形になりますので、日本側においては駐在員事務所で発生した損益を合算した後の利益に基づき、法人税額の計算を行います。
 しかし、この駐在員事務所がPEと認定される場合には、インドに営業拠点(親会社の支店)があるものとみなされ、インドにおいて外国法人として所得課税が行われることになります。
 また外国法人の駐在員事務所では、営業活動ができないことはすでに述べましたが、現地駐在員を日本から派遣する場合、日本と現地国における給与負担の問題、現地における個人所得税の源泉納付などの納税義務が発生します。また、一定の取引(コミッション、会計事務所などへの専門サービス)については、その代金の支払時に源泉所得税を徴収し、支払者(駐在員事務所側)が毎月納税をすることが義務付けられています。進出して間もない頃は、源泉徴収が必要な支払の際に、源泉徴収をせずに請求額の全額を支払ってしまう例が多々見られます。このような場合、同じ会計年度内であれば、次回の支払時に未調整分を調整することが現地では一般的な対応となります。
 一方で、誤って取引先に2重支払い、かつ源泉徴収を行っている場合においても同じ会計年度内であれば次回の取引時の支払い時に調整することが可能です。
 源泉徴収の納税遅延の場合は、遅延利息として月利1.5%(年利18%)が課税されます。また、外国法人の駐在員事務所は、外国法人の一部とみなされるため、海外からインド国内への支払に際して、支払国側で源泉徴収を行わなければいけないことがあります。
 日本の例で言うと、日本企業がインド駐在員事務所にかかる会計事務所等へのコンサルティング費用を支払った場合に、コンサルティングの内容によっては租税条約上の「技術役務提供」という事で日本側で源泉徴収が必要な場合があります。また、その際の源泉徴収税率についても、国内法が適用される場合と、租税条約による軽減税率が適用される場合があり、軽減税率を適用する場合には、租税条約届出書を所管税務署に提出しなければいけません。
 
 駐在員事務所は、営業活動が禁止されているため、銀行預金にかかる利息収入などは発生しますが、基本的に営業活動による所得は発生しないと考えられます。従って、現地国における活動費用のみが発生するため、この場合にはインドにおける法人所得税額は発生せず、大きな税務リスクが生じることはないと考えられます。
[支店などの営業拠点を設けて活動を行う場合]
支店形態と駐在員事務所形態との大きな違いは、支店の場合はビジネスを通じて所得が発生し、インドにおいて法人所得税を納税する必要があるという点です。インドにおける支店での活動については、発生した利益に対して、インドの法令に基づき通常は「外国法人」としての課税が行われることになります。
法人所得税率については、以下の通りとなります。
なお、2 0 1 8 年予算案に基づき、教育目的税は健康教育目的税に置き換えられ、3% から4% に引上げられました。以下教育目的税の3% は4% として計算することになりますが、毎年の予算案で変更の可能性があるので、直近の税率を確認する必要があります。
支店で発生した損益については、駐在員事務所のケースと同様、日本側において日本本社の所得と合算されるため、インドでの営業活動の赤字を回避できるというメリットがあります。
しかし、支店の営業活動から発生した所得については、インドで外国法人の所得として課税され、日本においてはインド支店の利益を合算して法人税の計算が行われるため、支店の利益部分について、日本
とインドの両国で、同一の所得に対して二重に課税がされることになります。
このような場合には、本店所在地国における税務申告の際に「外国税額控除(詳細はP. ●参照)」の規定を適用することにより、二重課税となっている所得部分の税額に対して必要な調整を行うことになります。
インドに現地法人を設立した場合には、その現地法人はインドの内国法人となるため、インドの国内源泉所得のみでなく、インド以外のすべての国で発生した所得に対して、インドにおいて課税されること
になります(全世界所得課税)。
インドの内国法人の場合、インドにおいて課される法人所得税率は以下のとおりです。

国際財務戦略と国際税務

■資金還流にかかわる財務戦略

 近年、日系企業によるインド進出が盛んになってきています。経済成長の著しいインド市場は非常に魅力的ではありますが、市場参入するとなると多くの問題に直面することもあります。特に財務面では、資金運用について綿密な事業計画の立案が必須となります。
[資金の調達方法]
 インドでの資金調達を考える場合、「自己資金による調達」と「外部からの調達」の2通りが考えられます。
・自己資金による調達……増資、グループ内での資金援助など
・外部からの調達……金融機関または第三者からの借入など
 日本での取引であれば、比較的資金調達が行いやすい面もありますが、これがインドとのやりとりとなると、外資規制などにより自由な資金調達が行えない場合が多々あります。
 現地国側で資金調達を行う場合に、親会社での債務保証が行われることが多くありますが、その場合には親会社の債務保証行為に対しての対価を支払う必要があります。関係会社からの資金調達の場合、どのように調達時における金利を決定するのが重要となります。なぜならば、現地国における適正利率での金銭貸借が行われていない場合には、それぞれの国において「移転価格税制」の適用を受けるリスクが発生するためです。
[余剰資金の資金還流]
 また、現地国で余剰資金が生み出された場合の資金還流についても、日本と異なり、インドからの還流については会社法、税法など多くの制限を受けることとなります。日本企業がインドへ進出し、インドの活動を通じて利益が発生した場合、この利益を留保して再投資するのか、親会社に還流するのか検討する必要があります。
 インドにおいて内部留保・再投資をする場合には、基本的に税務上の問題は生じませんが、日本にある本社または親会社へ利益を還流する場合には、その還流の方法により税務上の取扱いが異なってきます。

■支店から本社への利益還流

インド支店から日本本社へ利益を還流する場合、通常は支店の税引後利益を送金する形となります。この送金は、あくまで本支店間の資金移動という形であり、本社の損益には影響しません。国によって
は、支店利益の送金に対して現地国において課税されるケースがありますが、インドではそのような規制はありません。
送金の際にその年度の財務諸表の提示を求められるケースがあり、その際には現地の会計士に詳細を確認する必要があります。

■子会社から親会社への利益還流

  インドに現地法人を設立し、現地で生じた利益を日本親会社へ還流する場合、その方法としては以下の2通りが考えられます。
・配当により親会社へ還流する方法(資本取引)
・親会社との取引を通じて還流する方法(損益取引)
 いずれの方法を選択するかにより、子会社・親会社の損益に影響が生じ、その結果、両国の納税額が変動することになるため、事前にそれぞれの方法によって関係する税金、最終的な利益還流額をシミュレーションすることにより、余分な税負担を回避することが可能となります。
[配当により親会社へ還流する方法]
 インドで発生した利益を親会社へ配当として支払う際には、それぞれ次の点に注意する必要があります。
・配当の支払側(インド側)の課税関係
・配当の受取側(本ケースでは日本側)の課税関係
 多くの場合、配当金の支払時に源泉税として支払総額に対して一定率の源泉所得税が課税されますが、インドにおいては配当金の支払側に対して(つまり、配当という行為に対して)課税が行われます。
 インドの所得税法においては、利益配当を行った会社に対しては配当分配税(DDT)が課税され、配当を受領した株主が配当について所得税を課税されることはありません。
 
インド子会社が支払った配当分配税については、あくまでインド子会社が負担すべき税金となるため、日本親会社が外国税額控除の適用を受けることはできません。
日本の親会社側では、この配当金については「外国子会社配当益金不算入制度」の規定により、法人税額の計算上は益金不算入となります。
[ 親会社との取引を通じて還流する方法]
インド子会社から親会社に対して、経営指導料やシステム使用対価、ロイヤルティ等を支払うことがありますが、これらも親子間の取引を通じて実質的に子会社から親会社への利益還流が行われている形になります。
国際間での親子会社間取引については「移転価格税制」の対象となるため、これらの取引を行う際には、税務当局に対して取引価格の妥当性を証明できるよう、事前に根拠資料を揃えておく必要があります。

資金回収における留意点

■現地法人と支店の比較

 インドにおいては、現地法人と外国法人の支店で、適用される法人税率が異なります。
また、現地法人が行う配当には法人税とは別に配当分配税(DDT)が課税されることになり、配当金額と実際の送金額に違いが生じることになります。
支店の設置については、資本金が必要ないため設置にかかるコストが少ない代わりに、下記の点について注意が必要です。
・ 外国法人としての高税率による所得課税
・ 本店所在地国との二重課税問題
・ 本社との取引価格の移転価格問題(P. ●参照)
以下、これらの事項について検証していきます。まず、海外法人の支店の場合、税務上はインドにおいては外国法人の一部、つまり外国法人として扱われることになるため、インドの内国法人(子会社による進出)と比較し、高い税率で課税が行われることになります。
[ 形態別法人所得税額比較]
課税所得金額を2,0 0 0 万ルピーとすると、実効税率は次のように算出します。
つまり、この税率による差額である192 万6,400 ルピーが、日本からのインド投資における取引費用として発生することになります。
[ 形態別還流額比較]
法人所得税額だけを見ると、税率差により子会社による進出が有利のように思われますが、留保した利益の還流を全体的に考慮すると、一概に有利とは言えないケースもあります。
たとえば、支店形態の場合は本社への資金還流を無税で行うことができます。しかし、子会社形態による進出で、税引後利益のすべてを配当により親会社に還流した場合には配当分配税が課税されるため、それを控除した残額が日本へ還流されることとなります。
計算の前提
・ 単位はルピー換算額と仮定
・ 支店の税額を控除する前の利益(税引前利益)は2,0 0 0 万、本店の支店利益合算前の税引前利益を4,000 万と仮定
・ 日本側の実効税率は30% として計算
・ 計算の便宜上、税引前の利益金額と税金の課税標準額は一致しているものと仮定
日本側においては、配当として資金を受取った場合、配当額の5%が所得として認識される(受取配当金の9 5% が益金不算入となる)ため、これらを踏まえた上でどちらが最終的に有利かを判断する必要があります。

支店から本店への送金の場合

■インド側における税額計算の流れ

[ 法人税の対象となる課税所得の算出] … ①
支店の課税年度における課税所得を算出します。
[ 法人税額の算出] … ②

■日本側における税額計算の流れ

[ 法人税の対象となる合算課税所得金額を算出] … ①
支店における税引後利益は、本店に送金されるか否かを問わず、本
店でも課税されます。日本側においては、全世界所得課税となるた
め、日本本店での国内所得金額とインド支店での国外所得金額を合算
します。
[ 外国税額控除によりインド側の所得分に対する税額を控除] … ③
②で求めた税額は、全世界所得に対する税額であるため、二重課税
となっているインドでの納付税額を控除して二重課税を排除します。
計算については、まず「控除限度額」を算出し、外国法人税額とそ
の控除限度額とを比較し、いずれか少ない金額を納付すべき税額から
控除することになります。
つまり、日本で課される法人税額のうち、国外所得金額に対応する
部分の税額しか控除の対象とすることができないということです。
注意点として、日本の外国税額控除の税額控除範囲は「外国法人税
の額※」とされており、教育目的税は税額控除の対象には該当しない
ため、控除税額の計算上、これを含めない金額を控除することとなります。
※わが国の法人税に相当する税で、外国の法令に基づき外国またはその地方公共団体に
より法人の所得を課税標準として課される税(法人税法69条①、法人税法施行令141
①)
 インドで課された、控除対象となる外国法人税額が控除限度額を超えるため、控除対象外国法人税額を以下のとおり計算する必要があります。
※インド法人所得税のうち、教育目的税は控除の対象とならないためインド側で算出した税額から控除

子会社からの配当による資金回収

■子会社からの配当による場合(100%配当のケース)

子会社で生み出された利益を1 0 0% 親会社へ配当として還元するケースで検証していきます。まず、子会社の税引後利益が1,3 6 0 万4,0 0 0 円であるため、配当を行う上で配当分配税を含めた配当額が同金額に収まるように計算を行います。日本へ配当が行われた場合、配当額は「受取配当金」として親会社側の営業外収益に計上されます。ただし、この受取配当金については全額が課税されるわけではなく、「外国子会社配当益金不算入制度」の規定により所得金額の計算上、一定部分が所得から控除されることになります。

■子会社からの配当による場合(80%配当のケース

■外国子会社配当益金不算入

かつて、日本の法人税法では、海外関連会社から受取配当について「間接外国税額控除※」という規定が定められていました。しかし、実務上、海外子会社の所得計算の把握が困難なことや、事務処理が煩
雑であることから、企業の海外投資促進を阻害する恐れがあるとして、2 0 0 9 年4 月1 日以降はこれに代えて「外国子会社配当益金不算入」という、配当自体を所得計算に組み込まない手法が用いられています。
※子会社が現地国において課された法人税のうち、親会社が受取った配当に対応する部分の税額を、日本で納付する法人税額から控除する方法
[ 適用対象]
この手法が適用される対象は、内国法人(日本の親会社)が外国法人(インド子会社)の発行済株式等の25% 以上を、配当等の支払義務が確定する日以前に6 カ月以上、引続き直接に保有している場合
の外国法人(特定外国子会社等)です。
特定外国子会社等については特に制限はなく、タックス・ヘイブン対策税制で「特定外国子会社等」とみなされる子会社からの配当であっても、上記の要件を満たしていれば益金不算入となります(ただし、タックス・ヘイブン国に所在する外国子会社等については、一定の適用制限があります)。
[ 計算方法]
益金不算入とされる金額は、配当等の額から、配当等に係る費用に相当する金額として配当等の額の5% に相当する金額(以下、「みなし経費※」という)を控除することにより、求められます。
※みなし経費について通常、国内の受取配当についても、その配当等を受けるために支出した費用については、配当等の益金不算入額から控除する形になっているが、海外からの配当についても、計算の事務負担等を考慮し、概算で5%という形になっている
[ 還流割合の比較]
結論として、1 0 0% の利益還流を行った場合には、支店からの送金が若干上回ることとなりますが、実際には発生した利益すべてを還流するケースは稀です。
現地での再投資金額を控除した残額を還流することとなるため、還流割合が下がれば下がるほど、子会社での配当分配税の負担が軽減され、現実的には子会社形態の方が有利になります。

第三国を通じた投資スキーム

■モーリシャスを通じた投資スキームの検証

 [ インド・モーリシャス租税条約]
インドとモーリシャスは歴史的な関係もあり、二国間投資においては有利な条項がいくつも定められています。その中の、「インド・モーリシャス租税条約」においては、税務上有利な以下のような条項が規定されていました。
・ インドに対する投資によってモーリシャスの法人が受取る配当、ロイヤルティ、利子から生じる所得は、所得金額から最高1.5%での一定の支出を控除した後に、モーリシャスにおいて課税対象となる。また、モーリシャスの法人からインドの株主に対して配当を支払う場合には、モーリシャスにおいて源泉税は課されない
・ インドの企業からモーリシャスの会社に支払う特許権に対する源泉徴収税率は、20% から15% に減額される
・ モーリシャスの法人は、インドにおけるキャピタル・ゲインに対する所得税が免除される。つまり、モーリシャスにおいては、インド投資にかかるキャピタル・ゲイン課税は行われない
上記のうち、特にモーリシャスを発生源泉とするインドへの利益の配当は、租税条約において免税となるため、海外投資家にとっては、実質的に租税負担が軽減されることになっていました。しかしインド政府のデータから、過去15 年間の同国の直接外国投資2,7 8 0 億ドルのうち、3 分の1 以上がモーリシャスからの投資であり、さらにその一部はモーリシャス企業によるものではないことから、インド企業が自国での課税を逃れるためにモーリシャス経由で資金移動させたとの疑いが高まり、2016 年5 月10 日に両政府は租税条約を改正する議定書に署名しました。
キャピタル・ゲイン条項の改正を含む、条約改正の主なポイントは
下記のとおりです。
・ 一方の締約国の居住企業が発行する株式が譲渡された場合、当該一方の締約国は、譲渡者が居住者である場合のみ譲渡収益は非課税であったが、2 0 1 7 年4 月1 日以降に取得した株式の譲渡から生ずる収益に対して、譲渡者の居住性を問わず、課税するものとする
・ 2 0 1 7 年4 月1 日から2 0 1 9 年3 月3 1 日までの期間に発生したキャピタル・ゲインには経過措置が適用され、特典制限条項第2 7A 条の要件を満たした場合のみ、譲渡株式を発行する企業
の居住国の国内税率の50% で課税される。移行期間後は国内税率がそのまま課税される

■シンガポールを通じた投資スキームの検証

[ 二重課税回避協定]
1994 年5 月27 日、インドはシンガポールとの間に二重課税回避協定を締結しました。前述のインドとモーリシャス間のDTAA と類似したこの協定は、二国間投資に有利な条項として、主に以下の点が
規定されています。
・ 締約国A に所在する企業から締約国B の居住者に対して支払われた配当金に関しては、締約国B においてのみ課税することができる。しかし、配当金が締約国A の法に照らし合わせて締約国A により課税可能である場合には、税は配当金総額の1 0%(受給者が2 5% 以上の企業の株式を保持している場合)もしくは15%(その他の場合)を超えないものとする
・ 締約国A の居住者による、締約国B における財産譲渡から発生したキャピタル・ゲイン(資本利得)は、締約国A においてのみ課税される
シンガポールとインドの両国は、二重課税回避条約に引き続き、包括経済協力協定を締結しました。この協定の主な目的は相互の投資と経済協力を促進することにあります。この協定の実施に伴って、シンガポールとインドは二重課税回避協定を改定するために、2005 年8月より有効な補足協約を結びました。
この改定により、シンガポールとインド間の二重課税回避協定は、現状、ある程度の条約濫用対策を盛り込みつつも、インドとモーリシャス間の二重課税回避協定によってもたらされるメリットと類似の効果を提供しています。
シンガポールの法人は、以下のような特定の条件の下では、インドの投資先企業が保有する有価証券譲渡から得られる譲渡益については、インドにおけるキャピタル・ゲイン課税が免除されます。
・ シンガポールにおける株式の譲渡益に対する課税の免除は、その株式の譲渡による所得が事業としての収入ではなく、キャピタル・ゲイン(資本利得)であるとみなされた場合にのみ適用される。証券取引を主たる事業にしている金融会社は、そもそもキャピタル・ゲイン(株式の譲渡益等)を目的としており、キャピタル・ゲインが「事業収入」として認識されるため、同規定を適用することができない
・ 会社は、租税条約の優遇規定を受けることを目的とした会社の方針を設定することはできない
・ 架空会社やトンネル会社など、経済実態のない会社は条約による課税の免除は受けられない。ただし、企業が以下の基準に一つでも適合する場合、架空会社もしくはトンネル会社とはみなされない
・ シンガポール認定の証券取引所に登録されている
・ キャピタル・ゲインの発生直前2期において、年間経費として200,000 シンガポールドルを消費している
これらの規定を盛り込む背景としては、租税条約の濫用と税金逃れを防止する意図があります。
上記の適用により、日本企業に対する外国税額の負担は以下のようになります。
・ シンガポール子会社に対して、被投資会社から支払われる配当に対しては、源泉徴収税(TDS)は課税されない。ただし、被投資会社から支払われた配当に対しては、シンガポールにおいて所得
税が課される
・ 被投資会社からシンガポール子会社へ支払われた配当は、一定の条件のもとに、シンガポール子会社の所得計算上、控除される
・ シンガポール子会社による日本親会社への配当に対しては、源泉徴収税はかからない
・ インド- シンガポール二重課税回避協定に基づき、条約濫用防止規定に抵触しないことを条件として、シンガポール子会社による被投資会社内の株式の移転については、キャピタル・ゲイン課税は適用されない。
・ 日本の会社が自社の株式をシンガポール子会社へ移す場合、シンガポールでは、日本の会社の管理下にあるキャピタル・ゲインについては課税されない
したがって、上記の条件下では、日本企業はシンガポール側では納税義務はほぼ発生しないことになります。ただし、日本側においては、日本の税法に基づいてキャピタル・ゲイン、インカム・ゲインに対して課税されます。
シンガポール経由の投資メリットの一つは、シンガポールはモーリシャスよりも多くの国と二重課税防止条約を締結しており、日本もその中に含まれている点です。そのため、日本とシンガポールとの間で
も、税務的に効率の良い投資スキームを作ることが可能です。タックス・ヘイブンへの監視強化で、シンガポールはOECD との間で透明性の向上には合意したものの、必要な国際協定に署名していない国・地域である「グレーリスト」に掲載されていました。しかしその後、OECD が定める新しい基準を盛り込んだ12 の税制上の国際協定のうちの9 つに署名したため、2 0 1 0 年に、国際基準をおおむね採用した国を掲載する「ホワイトリスト」に分類されました。

国際税務の個別論点ー租税条約

■租税条約

租税条約とは、二重課税の排除と脱税の防止を大きな目的として、国家間で締結される成文による合意(条約)です。この条約は国家間の約束事であるため、その適用にあたっては、それぞれの国が定めて
いる国内法に優先して適用されることになります。つまり、国内法において「課税」とされていても、租税条約において「非課税」とされている場合には、「非課税」として取扱うことができます。
しかし、租税条約を適用することにより、国内法より不利になってしまう場合には、国内法の規定を優先適用することも可能であり、これを「プリザベーション・クローズ(Preservation Close)」と言います。
租税条約以外の各種の条約でも、相手国の居住者などに対して日本における特定の税目上の扱いを、別途に定める場合があります。インドは以下の国と租税条約を締結しており、日本もそのうちの一カ国です。
インドとそれぞれの国との間で締結されている租税条約は、日本も含め「OECD モデル条約」をベースにして締結されています。

■OECDモデル条約

 経済協力開発機構(OECD:Organisation for EconomicCo-operation and Development)は、フランスのパリに本部を置き、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、経済成長、貿易自由化、発展途上国の支援を行うために発足した組織です。
第二次大戦後、アメリカのマーシャル国務長官は経済的に混乱状態にあった欧州各国を救済すべきであるとの提案を行い、「マーシャルプラン」を発表しました。これを契機として、1 9 4 8 年4月、欧州1 6 カ国により欧州経済協力機構(OEEC:Organizationfor European Economic Cooperation)が発足しました。これが、OECD の前身となります。
その後、欧州経済の復興に伴い1 9 6 1 年9 月、OEEC 加盟国にアメリカおよびカナダが加わり、新たにOECD が発足しました。日本は1 9 6 4 年にOECD 加盟国となりました。以下は、主なOECD 加盟国です。
OECD モデルとは、OECD が加盟各国に対して採用を勧めている租税条約のモデルであり、加盟国やモデルに賛同する非加盟国との間の2 国間において租税条約を新たに締結したり、既存の租税条約を改定する場合の雛型となります。
今後、日本企業のグローバル化に伴い、日本の親会社との直接取引だけでなく、日本以外の海外子会社とインドの子会社との間で取引が行われることも想定されます。
その場合には、日本とインドで締結されている租税条約ではなく、その海外子会社の所在地国と取引先国との間で締結されている租税条約の内容も把握する必要があります。

■日本とインドとの租税条約

 インドと日本の間の租税条約(日印租税条約)では、おおむね以下のような内容が定められています。
・ 相互間におけるPE の定義
・ 居住性についての定義
・ 所得帰属についての定義
・ 相互間における配当にかかる税率
・ 相互間における利息の収受にかかる税率
・ 相互間における短期滞在者免税規定
・ 二重課税排除についての取り決め(相互協議)
以下は、日本とインドとの間で締結されている租税条約で規定されている税率となります。「限度税率」という形をとり、これらの税率を超えない範囲において、一定の国際間取引を行う際に課税されることとなります。

■取引事例による検証

 日印間の取引の中で、経常的に問題となるのが「源泉徴収の必要の有無」です。これを、インドに販売拠点を設けて販売活動を行っている事例で検証してみます。
日本で販売活動を行っている会社が、取引拡大、海外進出のためにインドに子会社を設立しました。
インド子会社は、インドにおいて親会社から委託されたインド国内の顧客に対する営業活動を行っており、その対価として受注に応じて親会社からコミッションを受取ります。
インド子会社がインドにおいて受注を取った場合、販売契約は日本の親会社とインドの顧客との間で直接行っています。この場合、親会社が子会社に対して支払うコミッションは日本で源泉課税の対象となるのでしょうか。
検 証
源泉課税の有無の判定には、まず、居住性の判定が必要となります。子会社は日本に所在していないため、日本の税務上は「外国法人」として取扱われます。外国法人については、日本国内に所得の発生源泉のある所得にのみ課税が行われます。
では、このコミッションの発生源泉はどこにあるのでしょうか。営業活動という役務提供取引であり、実際の営業活動がインド国内で行われていることから、所得の発生源泉はインドにあると考えられます。よって、インドの国内源泉所得となり、日本においては国外源泉所得となります。日本における課税は国内源泉所得のみであるため、このコミッションに対しては、日本で源泉徴収の必要はありません。
ソフトウェア開発取引を通じた源泉課税の事例を検証します。日本にあるA 社から、インドにあるB 社へソフトウェア開発を委託しました。B 社は、委託された業務に対して成果物をA へ引き渡しました。A 社は成果物に対し、委託料を支払うことになりますが、この支払額に対して源泉徴収の必要性はあるのでしょうか。
検証
日印間においては、租税条約上、「技術上の役務提供に対する対価」の規定が定められています。
これは、日印の両国間において技術上の役務提供を行った場合には、それぞれの国において課税することができるというものです。B社はインド法人ですから、当然インド国内で収入として課税がされますが、この条約の規定により、取引の相手国である日本でも源泉課税がされることになります。
この技術上の役務提供については、租税条約条文上の定義はありますが、実務上は具体的にどういった取引がこれに該当するか不明確部分も多く、ケースバイケースで検証を行う必要があります。
日印間では、源泉徴収の対象となり支払国で源泉徴収税が課税されることになりますが、このケースは、日本からまずアメリカへソフトウェア開発を委託し、アメリカからインドへ開発を委託したケースです。
検証
それぞれの取引の課税上の扱いをみていくと、まずインドとアメリカ間での取引について、米印間では日本のように租税条約で「技術役務提供」の規定が定められていないため、源泉徴収税は課税されません。
また、日本とアメリカについても、租税条約において「技術役務提供」の規定がないため、日米間でも源泉徴収の対象とはなりません。
問題となるのは、資本関係のある会社間でこのような取引が行われた場合です。日印間の租税条約における「技術役務提供」の規定があるため、日印間で直接取引を行わず、第三国を通すことにより源泉徴収を逃れることができます。
しかし、個別取引上は法的に問題がなくても、一連の取引を通じて「租税回避」の意図がある場合は、国際的租税回避行為とされます。税務当局から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。
事例
インドに本社がある法人が、日本進出のために日本に支店を設置しました。活動資金については、金融機関に預け入れます。預け入れた資金については、一定期間経過後に利息が支払われます。この支払われる利息について、日本の内国法人であれば通常20%(15% 源泉所得税、5% 地方税利子割)が源泉徴収された後の金額が支払われ、課税関係が完結することになります。
ただし、日本とインドの間で締結されている「日印租税条約」では、この利息に係る源泉税について、お互いの国が10% の範囲内での課税を行うという取り決めがされています。
検証
この租税条約の規定は、通常の国内法(日本では、法人税法・所得税法など)に優先して適用されるため、このケースにおいては2 0%ではなく10% の源泉税が徴収されることとなります。これは利息取引の例ですが、ほかについても同様の取り決めがあります。日印間での租税条約はこのような形になりますが、ほかの国の租税条約では、収入自体に課税がされない、というような取り決めがされていることもあります。そのため、「租税条約」は国際税務を考える上で、特に重要な位置付けです。
なお、源泉徴収された税額については、外国税額控除の規定により、本国で納付すべき税金から支払った税額を控除することができます。
事例
最後に、駐在員事務所が現地で源泉徴収対象となる役務提供を受けた場合を考えてみたいと思います。この場合、現地での役務提供元に対して駐在員事務所は、インド側のみならず、日本側でも請求金額から源泉徴収を行い、納付する必要があります。
検証
これは、駐在員事務所は外国法人とみなされ、日本法人が役務提供を受けたとされるからです。日本側での源泉税率は、租税条約に定めがあるものであれば、租税条約に関する届出を提出することにより、20% から10% に軽減できます。届出書は、管轄の税務署に対して役務提供を受ける前に行う必要があります。

 

PE認定課税

■PE認定課税とは

 インドに恒久的施設(PE)を設けて事業活動を行う場合には、通常、インドにおいて納税義務が発生することになります。言い換えれば、インドにPE が存在しなければ、インドにおける納税義務が発生
しないというのが原則です。
このPE の範囲については、各国の国内法およびインドなど投資先との租税条約等で、おおまかな例示がされています。
しかし、法的にPE を有していない場合であっても、実態としてインドにおいて所得が発生しているとみなされる場合には、インド側で所得に対する課税権が発生することになります。これを、「PE 認定課税」と言います。
PE 認定課税のリスクは、そもそも会社側は所得発生の認識がない状況下で税務申告等を行っているため、もしPE 認定課税が当局より行われた場合には、必ず二重課税の問題が生じるという点です。
PE の定義については、定めがありますが、その適用範囲については具体的、かつ明確に定められてはおらず、各国の税務当局の判断に基づくものです。最悪のケースでは、インド側でPE として認定され課税がされたにもかかわらず、日本側ではPE として認定されず、二重課税の調整ができないということも想定されますので、注意が必要です。

■PE認定課税の例

 PE 認定課税の例としては、次のようなケースがあります。
・ 日印間の業務契約で、日本からインドへ人員を派遣して業務を行う場合に、一定期間を超えると、税務当局よりPE と認定され課税が行われるケース
・ 駐在員事務所を設けている場合、本来は禁止されている営業活動を行っているものとみなされ、これをPE(親会社の支店)と認定され、発生したとみなされた利益に対して課税が行われるケース
・ 日本企業がインドに子会社等の関係会社を有している場合に、その関係会社が行っている業務が実質的に日本企業が行うべき行為(親会社名での契約代理行為など)である場合に、子会社を独立した事業体ではなく日本親会社の支店とみなされ、インドにおいて課税が行われるケース
PE の定義については、国内法のみならず、租税条約においても詳細に定められています。

 

BEPS防止措置実施条約(「MLI」)

■BEPS防止措置実施条約とは

BEPSとは、Base Erosion and Profit Shifting (税源浸食と利益移転)の略称になります。OECDでは、近年のグローバルなビジネスモデルの構造変化により生じた多国籍企業の活動実態と各国の税制や国際課税ルールとの間のずれを利用することで、多国籍企業がその課税所得を人為的に操作し、課税逃れを行っている問題に対処するためにBEPSプロジェクトを立ち上げました。このBEPSプロジェクトでは、G20要請により策定された15項目の「BEPS行動計画」が提案されています。詳細は下記URLをご参照ください。

日本 国税庁 BEPSプロジェクト
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/beps/index.htm

次にBEPS防止措置実施条約とは、英語でMultilateral Instrumentであり、正式名称は下記の通りです。

The Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent Base Erosion and Profit Shifting
(税源侵食および利益移転を防止するための租税協定関連措置を実施するための多数国間条約)

Multilateral Instrument(以下MLI)とは、上記で述べたBEPS行動計画による変更を効率的に実施するために、既存の租税条約(現在3,000以上ある)を一挙に修正・改正することを目的とした概念になります。その国において、MLIの効力があるのかについて事前に確認することも重要ですが、MLIは既存の租税条約に取って代わるものではなく、租税条約を解釈するに当たり、MLIと合わせて読み取ることが必要とされています。

国際税務の世界では、MLIという単語がいきなり出てくるため、上記のような背景を理解しておくことが必要です。

MLIの効果は租税条約締約国の両国がMLIに批准しているか否かが焦点となりますが、インドと日本においては、下記の流れになっています。

【MLIへの署名日】
1. 2017年6月7日 両国がMLIに署名

【MLIの効力発生日】
批准書の寄託から3ヵ月を経過する日を含む月の翌月1日に効力を有する
2. 2018年9月26日 日本が批准書の寄託 2019年1月1日より効力発生
3. 2019年6月25日 インドが批准書の寄託 2019年10月1日より効力発生

【MLIの適用開始日】
源泉徴収される租税については、MLIの効力を生じる日以降に開始する課税期間の初日以降に発生する支払いまたは貸記額に対して適用される
その他の全ての租税については、両国においてMLIの効力が生じた後6か月以後に開始する課税年度以後
4.2020年1月1日・2020年4月1日 日本にて適用開始
5.2020年4月1日 インドにて適用開始

 

■MLIと代理人PEリスクの高まり

近年インドでは、このMLIが代理人PEリスクに影響を及ぼしていると言われています。
これは、上記で記載したように2020年4月1日よりインドにおけるMLIの適用開始が始まったことに影響を受けております。
具体的には、MLI第12条の「コミッショネア契約およびこれに類する取り決め」が日印租税条約に適用されるため、ビジネスモデルや契約書関連を改めて精査する必要性が出てきました。

MLI第12条と適応する租税条約第5条7項の詳細は下記のように記されています。

a)インドにおいて当該企業に代わって契約を締結する権限を有し、かつ、その権限を反復して使用すること;または
b)当該者は、インドで、物品又は商品の在庫を反復して保有し、かつ、当該在庫により当該企業に代わって物品 又は商品を規則的に引き渡すこと;または
c) 当該者はインドで、専らまたは主として当該日本企業自体のためまたは 当該企業及び当該企業を支配し、当該企業により支配され若しくは同一の共通の支配下に当該企業と共に置かれている他の企業のため、反復して注文を取得すること

上記の内、a)については下記のMLI第12(1)条の影響を受けることとなります。

一方の締約国内において企業に代わって行動し、そのように行動するに当たって、反復して契約を締結し、または当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果すもの。また、これらの契約が次のいずれかに該当する:

a)当該企業の名において締結される契約 ; または
b)当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産につき、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約 ; または
c)当該企業による役務の提供のための契約

上記の影響により、インド法人の駐在員が日本法人とインド企業間での契約の締結に当たり主要な役割を果たしている場合、4月1日以降より日本法人はインドに従属代理人の活動による代理人PEを形成することが可能となりました。

従って、マーケティング支援サービスやコミッショネアビジネス等においては、MLIの適用開始後(2020年4月1日以降)はインド税務当局よりPE認定という形でチャレンジされる可能性が高くなってきているため、事前の対策が必要となります。

具体的な対策としては、そもそものビジネスモデル自体を再検討することやグループ会社間またはグループ会社と駐在員間での契約書のレビューを行い、税務当局よりチャレンジされる想定し、事前の対策を講じることが必要になってきています。

 

外国税額控除

■インドの税務調査の特徴

 インドの税務行政に関しては、インドは非常に強引な税務調査及び課税が行われているといわれており、更正処分等を受けた後、ほとんどの企業がインド国内で訴訟を提起し、その内多くのケースで、納税者が勝訴しています。インドの場合、米国や日本などの諸外国と比べて納税者が国内訴訟を起こして勝訴できる確率が高いといわれています。これは、インドの税務当局が元々、裁判になれば覆されるリスクが高いことを覚悟の上で相当非合理的で強引な課税を行っていることが理由と考えられます。
また、勝訴率が高いことは、これらの課税が通ってしまうと今後の海外からのインドへの直接投資に悪影響が出ることを司法当局も危惧しているためと想定されます。ただし、インドでは訴訟を行った場合、判決が確定するまでに長期を有するため、通常は、訴訟は避けるべきであると言われています。
■紛争解決機構
[新しい紛争解決機構]
 比較的高い経済成長が続くインドでは、近年、多国籍系企業に対し移転価格課税やPE課税など国際取引に関する課税が多発しており、移転価格課税だけで毎年数百件が更正課税されています。多くの納税者は課税処分に納得せず訴訟を提起しており、裁判所の抱える税務訴訟案件が山積みになっています。
 このような状態を打開し、訴訟に依存せず納税者を救済する手段として、インドの課税当局である直接税中央税務局(CBDT:Central Board of Direct Taxes)が2009年11月に創設したのが、紛争解決機構(DRP:Dispute Resolution Panel)と呼ばれる制度です。紛争解決機構はデリー、ムンバイなど主要8都市に設置され、各紛争解決機構には3名のパネリストが任命されますが、いずれも各地の所得税務局長が兼任します。
 納税者は、税務調査を経て税務当局から更正案を受取った後、課税処分を受け入れる前に紛争解決機構に異議申立を行うことができます。紛争解決機構は、納税者の更正案受取から9カ月以内に結論を出し、それに基づき税務調査官は最終的な課税処分を決定します。
[紛争解決機構の問題点]
 紛争解決機構が抱える問題点として関係者が指摘しているのは、主に以下の2点です
①独自性と公正性
紛争解決機構のパネリスト3名はすべて所得税務局長で占められており、独立性と公正さを欠いた当局寄りの制度との批判が高まっています。
②パネリストの紛争問題解決能力
 今回の紛争解決機構設置の起因となった移転価格課税を取扱うには、国際取引に係る価格や利益率の妥当性に関する専門的な知識や経験が必要となります。
 しかし、パネリストに任命される地方の税務局長の大部分はそのような専門的経験を有しておらず、パネリストとしては不向きな人材であると指摘されています。また、パネリストは所得税務局長としての本来の仕事との兼務になり、1,000件を超える申請案件に対し9カ月以内に結論を出さなければなりません。そのため、ほとんどが新たな展開がなく更正案のまま最終結論が出され、9カ月間が無駄に過ぎてしまったというケースが続出しているのも当然といえます。
 今後、紛争解決機構が紛争解決機関としての信頼を得るためには、専門的能力のある公正な立場のパネリストを任命するなどの措置が必要といわれています。

■税務関連の紛争処理

 裁判外紛争処理手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)という制度があります。ADRの対象は、外国法人及び移転価格の調査対象となったインド法人です。
 ADRは、納税者、税務調査官、紛争解決機構(DRP:Dispute Resolution Panel)の3名のパネリストの3者によって行われ、税務調査官がその原処分案を提出してから10カ月以内に終了します。DRPは税務当局に対して拘束力を持つため、ADRで決済された判決に対する上訴を行うことができません。
 一方、企業がADR判決に対して異議がある場合は、国税上訴裁判所(ITAT:Income Tax Appellate Tribunal)への上訴が可能です。

タックス・ヘイブン対策税制

■タックス・ヘイブン

近年のアジア圏の経済成長には目を見張るものがあり、日系企業の進出件数も年々増加しています。特定の国だけではなく、アジア圏の複数国に拠点展開している企業などは、各国の海外子会社を統括するため、シンガポールや香港に地域統括会社(RHQ:Regional HeadQuarters)を設置して活動するようなケースが多く見られます。シンガポールや香港は、タックス・ヘイブン(軽課税国)と呼ばれ、所得に対する税負担が他の近隣諸国に比べて低く、これらの国に利益を集約させることにより、グループ全体の実効税率が低くなります。
インドへの投資においても、日本からの直接投資ではなく、地域統括会社を通じて孫会社化して管理を行うケースが近年多く見られます。
シンガポールや香港に統括拠点を設置することにより、各子会社から集約した利益を、最大限税制のメリットを活かして留保することが可能となります。
しかし、この地域統括会社が、日本側の「実体のないペーパーカンパニー」として税務当局により認定された場合には、その地域統括会社に留保されている利益は、日本側の所得と合算して、日本の法人税が課税されることになります。これを、「外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)」と呼びます。

■タックス・ヘイブン対策税策

 日本の法人税法に規定されているタックス・ヘイブン対策税制とは、内国法人等が特定外国子会社等(軽課税国に所在する外国関係会社)を有する場合に、その特定外国子会社等が留保した利益のうち、内国法人が保有する当該子会社株式の所有割合に対応する部分の金額をその内国法人等の収益とみなして、日本で合算課税するという制度です。
つまり、日本では会計上「収益」が認識されていないにもかかわらず、税務上で「益金」を認識することにより、海外の留保所得について日本で課税をする制度です。
日本における従前の規定では、子会社側の負担税率が一定割合を超えている場合には当該税制の適用対象外になる等の除外規定が存在していましたが、OECD を始めとする世界的な租税回避への規制強化を受け、日本でも平成29 年度の税制改正で大幅にその見直しが行われました。この改正で子会社に経済活動の実態があり、その事業活動から生じた所得であれば、子会社の租税負担割合にかかわらず合算対象外となる一方で、子会社としての経済的な実態がない法人の所得や一定の受動的所得(利子、配当、一定の資産譲渡損益等)は、税負担割合にかかわらず合算対象になることになりました。

 

インドにおける国際課税救済手続き

■インドの税務調査の特徴

インドでは非常に強引な税務調査および課税が行われていると言われており、更正処分等を受けた後、ほとんどの企業がインド国内で訴訟を提起し、多くのケースで納税者が勝訴しています。インドは、アメリカや日本などの諸外国と比べると、納税者が国内訴訟を起こして勝訴できる確率が高いと言われています。これは、インドの税務当局が、裁判になれば覆されるリスクが高いことを覚悟の上で、相当非合理的で強引な課税を行っていることが理由と考えられます。
また、勝訴率が高いことは、これらの課税が通ってしまうと、今後の海外からインドへの直接投資に悪影響が出ることを、司法当局も危惧しているためと想像できます。ただし、インドで訴訟を行った場合は判決が確定するまでに時間を要するため、通常は訴訟を避けるべきであると言われています。

■紛争解決機構

 [ 新しい紛争解決機構]
比較的高い経済成長が続くインドでは、近年、多国籍系企業の移転価格課税やPE 課税など、国際取引に対する課税が厳しさを増しており、移転価格課税だけで毎年数百件が更正課税されています。多くの納税者は課税処分に納得せず訴訟を提起しており、裁判所の抱える税務訴訟案件が山積みになっています。
このような状態を打開し、訴訟に依存せず納税者を救済する手段として、インドの課税当局である直接税中央税務(CBDT:CentralBoard of Direct Taxes)が2009 年11 月に創設したのが、紛争解決機構(DRP:Dispute Resolution Panel)と呼ばれる制度です。紛争解決機構はデリー、ムンバイなど主要8 都市に設置され、各紛争解決機構には3 名のパネリストが任命されますが、いずれも各地の所得税務局長が兼任しています。
納税者は、税務調査を経て税務当局から更正案を受取った後、課税処分を受け入れる前に、紛争解決機構に異議申立を行うことができます。紛争解決機構は、納税者の更正案受取から9 カ月以内に結論を出し、それに基づき税務調査官は最終的な課税処分を決定します。
[ 紛争解決機構の問題点]
紛争解決機構が抱える問題点として関係者が指摘しているのは、主に以下の2 点です。
・独自性と公正性
紛争解決機構のパネリスト3 名はすべて所得税務局長で占められており、独立性と公正さを欠いた当局寄りの制度との批判が高まっています。
・パネリストの紛争問題解決能力
紛争解決機構設置の起因となった移転価格課税を取扱うには、国際取引に係る価格や利益率の妥当性に関する専門的な知識や経験が必要となります。
しかし、パネリストに任命される地方の税務局長の大部分はそのような専門的経験を有しておらず、パネリストとしては不向きな人材であると指摘されています。また、パネリストは所得税務局長としての本来の仕事との兼務である上に、1,000 件を超える申請案件に対し9カ月以内に結論を出さなければなりません。そのため、ほとんどが新たな展開がなく、更正案のまま最終結
論が出され、9 カ月間が無駄に過ぎてしまうケースが続出しているのも当然と言えます。
今後、紛争解決機構が紛争解決機関としての信頼を得るためには、専門的能力のある公正な立場のパネリストを任命するなどの措置が必要だと言われています。

■税務関連の紛争処理

 裁判外紛争処理手続(ADR:Alternative Dispute Resolution)という制度があります。ADR の対象は、外国法人および移転価格の調査対象となったインド法人です。
ADR は、納税者、税務調査官、紛争解決機構の3 名のパネリストの3 者によって行われ、税務調査官がその原処分案を提出してから10 カ月以内に終了します。ADR は税務当局に対して拘束力を持つため、ADR で決済された判決に対して上訴を行うことができません。
ただし、企業がADR 判決に対して異議がある場合は、国税上訴裁判所(ITAT:Income Tax Appellate Tribunal)への上訴が可能です。

インドにおけるBEPS防止措置実施条約(「MLI」)

参考文献

・ “India Tax Guide 2016/2017”https://www.pkf.com/media/10028424/india-tax-guide-2016-17.pdf
・ Neil Benjamin Edmonstone Baillie “The Land Tax Of India : According ToThe Moohummudan Law” Smith, Elder, Co., 1873
・ PwC 税理士法人編『国際税務ハンドブック〈第3 版〉』中央経済社、2015
・ Income Tax Department Government of India website 所得税率一覧, 2017http://www.incometaxindia.gov.in/charts%20%20tables/tax%20rates.htm