第3章 インド-経済環境

改めて注目されるインド経済

■消費が牽引する経済成長

[拡大するインド経済]
インドの経済は年々拡大を続けていますが、特に近年はGDP 成長率で中国を上回り、他の新興国の成長が鈍化する中、内需が景気を牽引しています。
2 0 1 5 年度の実質GDP 成長率は中国の6.9% を上回り7.6% と高い伸び率を示しました。
2 0 1 6 年度は中国の6.7% を下回り6.6% と減速が見られましたがこれはインドの国有銀行が不良債権に直面し、信用の伸びが抑えられ、一時的に経済成長が抑制されたためです。2017 年度は7.1%、2018 年度は6.6% の見込みと、比較的安定した成長率が予測されます。2 0 1 1 年に購買力平価GDPで日本を抜いて世界第3 位になり、2 0 1 6 年には日本の購買力平価GDP が4 兆9,319 億US ドルで世界第4 位であるのに対し、インドは世界第3 位で8 兆7,2 0 1 億US ドルと大きな開きを見せるまでに至りました。
PwC の調査レポート「2 0 5 0 年の世界」によると、2 0 5 0 年にはインドの購買力平価GDP はアメリカを抜き、世界第2 位になると言われています。世界経済が大きく変わる今、インドはその中心に位置しているのです。
[産業構造の変化]   
産業別に実質GDP 成長率に対する寄与率を見ると、サービス業の割合が大幅に上昇し、2 0 0 0 年度以降の平均で約6 5% になっているのに対し、鉱工業は5 0 年代からほとんど変化がなく、近年も3 0%弱にとどまっています。これは、今日の経済成長の3 分の2 がサービス業によってもたらされていることを意味します。
サービス業が発展してきた背景には、製造業の生産過程でIT などのサービスの投入が増加したこと、技術革新により新たなサービスが登場してきたこと、国内外の消費者からのサービス需要が増加したこと、民営化、規制緩和、直接投資導入や貿易自由化などの経済改革が進展したことなどが挙げられます
中でもIT 産業の発展は目覚しく、サムスン、エリクソン、モトローラ、デル、ノキアほか多くのIT 関連企業が進出しており、インドは世界でも有数の研究開発拠点となっています。サービス業中心の経済成長を遂げるインドですが、産業構造を他の東アジア諸国と比較すると、中国、タイ、インドネシアなどにおいては製造業の比率が高く、1 9 9 0 年から2 0 1 6 年における製造業(第2 次産業)の産業全体に占めるシェアは、中国は41.0% から40.7%へと減少傾向ですが、インドでは2 7.0% から2 9.8% へと増加しています。
一方、1 9 9 0 年から2 0 1 6 年におけるサービス業(第3 次産業)の産業全体に占めるシェアは、中国では31% から50.7%、インドでは4 1% から4 5.4% と、ともに上昇しております。このように、近年、インド経済は製造業を中心に鉱工業の成長率が高まってきたとはいえ、基本的にはサービス業中心の産業構造であると言えます。

■深まる世界経済との結びつき

[対外取引の状況]
インドの2 0 1 6 年度の海外直接投資の受入実績は、4 6 4 億US ドルで、対前年度比18% 増でした。産業分野別には、サービス業向け直接投資の受入が1 0 1 億US ドル、次いでテレコミュニケーション業が5 7.9 億US ドル、貿易・卸売業が3 1.2 億US ドルと、一部産業には停滞はあるものの、全体としては順調に伸びています。国別に見ると、投資額1 位がモーリシャスの1 5 0 億US ドル、2 位がシンガポールの98.2 億US ドル、3 位が日本の57.8 億US ドル、4 位はオランダの29.9 億US ドルで、5 位にアメリカの26.2 億US ドルと続いています。
モディ政権誕生(2 0 1 4 年4 月)後、停滞していた国内への直接投資(対内FDI)は増加傾向に転じました。海外からインドへの投資額は、2 0 1 5 年に3 9 3 億US ドルとなりました。中国経済が減速している中、有望な成⻑市場としてインドの存在感が⾼まっています。2 0 1 7 年度には、政府が同年4 月からの予算案を発表し、財政赤字のGDP 比を3.2% に据え置きました。
2 0 1 6 年1 1 月の高額紙幣の廃貨措置に伴う一時的な景気の下押しが予想され、ウッタル・プラデシュ州の議会選挙が控えていたものの、モディ政権は経常歳出の増加に繋がる景気刺激策を最小限に抑え、財政健全化に向けた強い姿勢を見せました。また、同時期にインド準備銀行(RBI)は金融政策委員会(MPC)で政策金利を6.2 5% に据え置くことを決定し、以降、長短国債利回りは上昇し、実質金利の水準も反転しました。
2013 年から2 0 1 7 年2 月にかけて他国通貨が大きく下落する中で、ルピーの相対的な底堅さが目立ちました。経済赤字の縮小と直接投資流入額の増加に伴って基礎的国際収支(経済収支+直接投資収支)がプラスに転じるなど、対外収支も安定していると言えます。2013 年のルピー相場の急落時に外貨準備水準の低さを指摘された経験もあり、RBIは積極的なUS ドル買い介入を継続しています。
2017 年2 月時点の外貨準備残高は3,6 2 7 億US ドルと増加し、対外バランスシートは強固と言えます。今後も、米トランプ政権の政策を巡る不透明感から、米長期金利やUS ドルの上昇と新興国通貨の下押しなどが予想されますが、相対的に強い実質金利、安定的な国際収支、「メイク・イン・インディア」に象徴される内需主導の成長など、同国のショック耐久力は強く、今後もルピー相場は底堅く推移されていくと予想されます。
[アメリカおよび中国との経済関係]
対米国関係 
かつてインドとアメリカは、「犬猿の仲」と言われましたが、今では「最良の友人関係」と言われるようになりました。この変化の理由としては、それぞれの思惑が合致したことが挙げられます。インドにとって、1990 年代の経済自由化においてアメリカは必要な存在であり、一方でアメリカにとっても、冷戦後に変貌したインドを世界戦略に組み込む思惑があり、経済面でもインドの巨大市場は無視できない存在だったからです。
2010 年、インド経済の中心であるムンバイを訪れたオバマ米大統領は、「米印関係はアメリカの2 1 世紀(の行方)を決定するパートナー関係」と位置づけ、インドとの戦略的な関係強化を図るとしました。この訪問の際に、アメリカとインドからそれぞれ約2 0 0 人の経済界トップが会合し、1 0 0 億US ドル(約8,1 0 0 億円)の商談が成立しました。
また、2 0 1 1 年6 月にはアメリカとインドの経済閣僚が年次経済協議を開催し、インドの金融、小売、製造、インフラセクターの市場開放に向けた努力を続けることを確認しました。ここでは、インドにおける金融セクターの近代化とインフラ整備のための資金調達、ウォルマートなど米小売企業のインド参入に向け協議を深めていくとしています。
2 0 1 6 年6 月にはモディ首相はオバマ米大統領(当時)の最も親密な外国首脳の1 人として、ワシントンを訪問しました。2 0 1 4 年5 月にモディ首相が就任して以来、2 0 1 6 年6 月までに合計7 回の首脳会談を行っています。
アメリカは、インドが国連安全保障理事会の常任理事国入りを目指すことに関して支持を表明する可能性を示唆し、両国の関係は強固なものとなりつつあります。米議会はモディ首相に対しておおむね好意的ではありますが、米企業の進出が阻害されていることや、非効率的な官僚主義への批判もあり、警戒感は完全には払拭されていないようです。
対中国関係
モディ政権の発足は印中関係にも活性化をもたらしています。2 0 1 4 年9 月には習近平国家主席が8 年ぶりに訪印し、モディ首相も2 0 1 5 年5 月に中国を訪問しています。モディ政権発足後わずか1 0 カ月の間に、インドからはアンサリ副大統領、スワラジ外相、シタラマン商工担当国務相らが相次ぎ訪中、中国からは王毅外相が訪印しました。
貿易の側面からは中国の対印輸出は2 0 1 3 年の約4 8 4 億US ドルから2 0 1 7 年は約6 8 1 億US ドルと約1.5 倍に拡大しました。中国の対外輸出総額に占めるインド向け輸出シェアは、2 0 1 3 年の2.2%から2 0 1 7 年は2.9% へ、以前に比べると伸び率は大きくありませんが着実に上昇しています。
2013 年頃、中印の通商関係が深まるにつれ、両国間では貿易摩擦が深刻化しました。当時、両国の貿易が急増した最大の要因は、電力や通信などインフラの整備を急ぐインドが、製造業のコスト競争力と供給力に勝る中国から製造設備の輸入を増やしていたためです。その結果、インドの対中貿易赤字は2015 年に484 億US ドルに膨らみ、インド側の懸念要因となりました。
その後も、インドの対中国貿易赤字は拡大を続けており、2015 年度(2015 年4 月~ 2016 年3 月)の赤字額は5 2 6 億8,0 0 0 万US ドル(約5 兆4,0 0 0 億円)と、前年度から42 億US ドル増加しました。貿易赤字是正には2 国間投資の拡大が必要です。両国は2014 年に「貿易・経済開発5 カ年計画」を発表し、上記貿易不均衡の是正に向けて協力する姿勢を見せています。
そうした中で、中国企業による活発的なインド進出が目立っており、2014 年には商用車大手の北汽福田汽車がインド西部マハラシュトラ州へ進出を表明、2 0 1 5 年にはIT 大手の華為技術(ファーウェイ)が、新研究・開発(R&D)キャンパスをインド南部のバンガロールに開設するなど、中国企業がモディ政権が掲げる「メイク・イン・インディア」に代表される産業振興・外資誘致政策を歓迎し、インド市場を魅力的な投資先として注目していることがうかがえます。
このように中国企業による対印投資は近年急増していますが、その一方で、引続き領土紛争や貿易・投資摩擦の解消が課題となっています。
2 0 1 8 年4 月にはモディ首相が習近平国家主席と非公式の会談を行いました。
国境問題、貿易不均衡等の課題がありつつも、政治の安定や経済発展のためには相互の協力が不可欠とみられています。

インドの経済動向

■リーマン・ショック後の経済

インドは世界で最も健全な経済成長をしています。リーマン・ショック後の落ち込みはあったものの、果敢な経済対策を打った結果、2 0 1 5 年度は7.9%、2 0 1 6 年度は6.8%、2 0 1 7 年度は7.2%、2018 年度は7.4%が見込まれるなど、引き続き高い経済成長を続けています。
インドは基本的に実物経済です。給与所得が上昇しても、中国のように不動産投資に向かうことはあまりありません。2050 年には中国に次いでGDP 世界第2 位になるという予測も出ています。購買力平価ではすでに日本を抜いて世界第3 位となっています。
その成長を支えているのが、中間所得層の増加で、今後数十年にわたって労働力として経済成長を支えるだけでなく、消費の牽引役になることも期待されています。中間所得層についての統一的な定義はありませんが、年間世帯可処分所得が5,0 0 0US ドル以上3 万5,0 0 0US ドル未満として捉えると、
2 0 0 1 年には0.6 億人、2 0 0 5年には1.8 億人、2010 年には5.6 億人であり、2020 年には中国を超えると見込まれています。
2016 年には、携帯電話加入者数が10 億300 万に到達しました。10 億人を超えるのは2012 年の中国に続いて2 カ国目であり、インドの人口は約1 2 億5,0 0 0 万人ですから、単純計算すると携帯電話普及率は約8 2% になります。また、インドの人口の半数は2 5 歳以下の若者です。彼らが結婚して経済的に独立し、子供を産み、家を買い、冷蔵庫やテレビを買うといった行動を繰り返す結果、需要が継続的に創出されており、供給不足の状態が続いています。
インド経済において長年の課題となってきたインフレと大きな貿易赤字は、2014 年以降、徐々に改善に向かっていると言えます。物価は、原油価格の下落に加え、昨今の食料品価格の落ち着きにより、消費者物価、卸売物価いずれも安定基調で推移しています。2017 年6月にインフレ率(消費者物価指数の前年同月比の上昇率)が1.4% と歴史的低水準を記録しました。2 0 1 6 年はモンスーン期の降雨量が2014 年、2015 年の少雨と比較して平年並みだったことから農業生産が良好となり、2 0 1 6 年半ばから食料品価格が下がり始めました。さらに、2016 年11 月の高額紙幣廃止を受け、現金決済が多い食料品など価格全体に、一時、大きな低迷が見られました。ただ、ルピーの下落が比較的小幅になっていることから輸入物価は落ち着き、当面は物価の安定が見込まれています。
一方、貿易赤字は、原油価格の低迷に伴い、同品目を中心に輸入が大きく減少を続けたことから、縮小傾向で推移しました。対外債務は緩やかな拡大を続けているものの、債務残高全体の名目GDP に対する比率と、短期債務の外貨準備に対する比率は、ともに他の新興国と比較して低水準となっています。こうした点が市場参加者から一定の信任を得ていることが、最近のルピー相場の底堅さに繋がっていると考えられます。

■政府の景気刺激

2 0 0 3 年から2 0 0 8 年頃まで、GDP 成長率が6 年連続で7% を上回るという、建国以来未曾有の好況が続きました。高進するインフレを抑制するために、インドの金融政策は引締め(金利引上げ)を続けました。インド準備銀行(RBI)は2010 年3 月に政策金利であるレポレート(銀行向け主要貸出金利)を5.0% に引上げ、その後2011年10 月から2012 年3 月にかけて8.5% まで金利を引上げました。しかし2 0 1 4 年秋以降、原油価格の下落などによりインフレ率が急速に低下したことを受けて、RBI は2015 年1 月から金融緩和(金利引下げ)に転じました。
2 0 1 5 年は8% から6.7 5% へと、合計4回で1.2 5% の利下げ幅となり、2 0 1 6 年4 月にはさらに6.5% へ引下げ、2 0 1 1 年3 月以来の低水準となっています。この利下げは、インド経済の追い風となっています。2017 年からはさらに6%へ引き下げましたが、2018 年に再度6.5%へ引き上げ、現在まで同率で据え置きとなっています。
一方、財政政策を見ると、現在インドは多額の財政赤字に悩まされています。2 0 0 8 ~ 2 0 0 9 年の世界的な景気後退に際して、インドも他国同様、インフラ投資などの財政出動を増額することで危機を乗り切ろうとしました。その結果、財政赤字は一時GDP の7.8% にまで膨らみ、2009 年2 月にはS&P が通貨建国債格付けを見直す方針を明らかにするまでに至っています。しかし、直近では第三世代携帯周波数帯の競売などが奏功しているほか、政府保有の国営企業株の売却も順次進んでいます。
こうした政府による赤字削減努力や景気拡大を背景とした税収増によって、大きな混乱を引き起こすまでには到らないものと考えられます。最後に、景気と金融政策に関する今後の見通しに触れたいと思います。まず景気ですが、拡大ペースは落ち着くものの今後も堅調に推移していくと思われます。
アジア開発銀行は、インドの中産階級以上の層が2 0 1 0 年の3 億人強から2 0 2 0 年には6 億人強まで増加すると予測していますが、この中間階級層の拡大に伴う民間消費の伸びが、短期的にも中長期的にも経済成長を牽引すると考えられます。
また、先般の金融危機で銀行システムが打撃を受けなかった点や、内需主導型の経済であるため欧米の景気動向からの影響が少ない点なども、インドの安定的成長が見込まれる理由です。景気拡大に伴ってインフレ圧力が続くことから、卸売物価などのインフレ率の低下は非常に緩やかなものにとどまるため、今後もRBI は政策金利の引上げを持続し、インフレの是正を図るものと思われます。

■Latest news and update

【2019 年度インド予算案速報】
 2019 年2 月1 日、ナレンドラ・モディ政権は暫定予算案を発表しました。2019 年5 月に下院総選挙が控える中で、農家に対する収入補助や、中低所得者層に対する税負担軽減措置、公的年金制度の導入など、有権者数の多い層に焦点を当てた内容となりました。ゴヤル財務相代理は同
予算案を国家が発展するために必要不可欠だとしており、インド経済全体のカスケード効果を期待しています。
農家全体の約72%が同政策の恩恵にあずかるとされ、2025 年迄にはその対象は90%に上る見込みです。また、当予算案講演では2014 年5 月のナレンドラ・モディ政権発足からの実施政策とその成果が強調されたと同時に、Ayushman Bharat, Pradhan Mantri Jan Ausadhi Yojana, Make in India, Jan Dhan Scheme, Start-Up India, MUDRA and the Insolvency andBankruptcy Code (IBC)等の特徴的な政策も提案されました。
一方で財政赤字の対GDP 比は3.4%と従来目標の3.1%から修正され、当初よりも赤字がやや拡大する見通しです。2020 年度は3.0%とする目標が堅持されたものの、一部のアナリストからは税収の見通しが楽観的で、財政面よりも選挙対策に重きが置かれており、ポピュリズムを優先した予算案との声も挙がっているようです。
■個人所得税
個人所得税の基本税率に変更はありません。
・個人所得税の所得控除限度額
課税所得からの標準控除額(Standard Deduction)は4 万ルピーから5 万ルピーへ増額することが提案されました。(所得税法16 条)
・個人所得税の還付額
従来、年間総所得が35 万ルピー未満の居住者に対する還付額は2,500 ルピーでしたが、年間総所得が50 万ルピー未満の居住者に対して1 万2,500 ルピーの還付額が提案されたため、事実上の税金負担の免除と言えます。なお、年間総所得が50 万ルピー以上の居住者に対しては、還付が認められないため、税負担は軽減されません。(所得税法87A 条)
・住宅売却による長期資産販売差益の再投資による課税免除
従来は、住宅売却から生じる長期資産販売差益を他の住宅資産購入に充てる場合、購入物件1軒に限り、課税所得からの免除が可能でした。
本予算案では長期資産販売差益が2,000 万ルピーを超えない限り、2 軒目の住宅投資にも適用可能とされました。同規定は生涯で一回のみ有効とされます。(所得税法54 条)
・自己占有財産に対する課税免除枠の拡大
従来、自己占有財産を複数所有している場合は、1 軒のみ自己占有財産として認められ、2 軒目以降は名目家賃に対して課税対象とされていました。本予算案により、2 軒目まで自己占有財産として課税免除として認められます。(所得税法24 条)
■法人税
・法人税の基本税率
法人税率の変更はありません。軽減税率25%を享受できる要件として、総売上高が25 億ルピー未満の国内法人に限られるという点も変更はありませんが、会計年度2018-2019 年度の軽減税率適用の可否は、従来の会計年度2015-2016 年度ではなく、2016-2017 年の総売上高を基準
に判定される旨が発表されました。
・最低代替税の税率
最低代替税の税率に変更はありません。
・住宅開発による収益の益金不参入
2019 年3 月31 日以前に所轄官庁に承認された開発計画に限り、益金不算入が認められていましたが、2020 年3 月31 日まで承認期日が延期されました。(所得税法80-IBA 条)
・在庫物件の課税免除期間延長
土地および建物の未売却在庫に対する、名目上賃料の課税免除期間は、所轄官庁より建設完了証明書を入手した会計年度末日から1 年とされていましたが、2 年に延期する旨の提案がなされました。不動産開発業者にとっては追い風となる見込みです。
■個人所得税・法人税共通
・源泉徴収対象となる利息収入額の基準額引き上げ
銀行、郵便局、およびその他機関から得た利息収入に対して、源泉徴収の対象とする基準額を1万ルピーから4 万ルピーに引き上げることが提案されました。(所得税法第194A 条)同提案により、源泉徴収に係るコンプライアンス適用となる取引が大幅に減少するため、各機関の負担が軽減されます。また、金利収入に対する源泉税額控除が発生するがゆえに、課税収入は持たないものの、控除額還付のために確定申告を余儀なくされていた、低所得者層の負担も軽減されます。
法人税
個人所得税・法人税共通
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Ⓒ 2015 Tokyo Consulting Group
Ⓒ 2019 GGI Tokyo Consulting Group
Union Budget 2019
・源泉徴収対象となる賃貸料の基準額引き上げ
賃貸収入に対して源泉徴収対象となる基準額の1 万8,000 ルピーから2 万4,000 ルピーへの引き上げが提案されています。(所得税法第194I 条)
■関税
モディ政権の掲げる“メイク・イン・インディア”政策を促進する狙いで、36 品目の資本財の輸入に課される関税を撤廃しました。2018 年度輸出額は前年比10.18%増の2,454 億USD に上る中で、ゴヤル財務相代理は、輸出は雇用を生み出し、製造を加速させるものだと、輸出志向を強める考えを発表しており、関税局の内部システムの改良も積極的に行われました。関税局は輸出入取引全般のデジタル化を進める方針で、施策の一例としてRFID(RadioFrequency Identification)を用いて輸出時の物流改善を図る旨を公表しました。
■物品&サービス税
政府は、2018 年4 月から2019 年1 月の期間に9,710 億ルピーを物品サービス税(Goods &Service Tax : GST)税制の下で徴収しました。会計年度2019-20 年は7,610 億ルピーと想定しており、2 年前にGST 税制が導入された当初の目標税収額に達する見込みです。
一方で、GST 税制の基盤が完全に整備されるのには時間を要する見込みで、2019-20 年もGST審議会は継続されるため、税率やスキームは引き続き変更されるでしょう。本予算案ではインド経済の大部分を占める中小規模企業に対して、下記の変更が発表されました。
・GST 登録義務が免除される小規模事業者の基準が、会計年度内の売上高が200 万ルピーから400 万ルピーに上昇する
・コンポジションスキームが適用となる製造会社・販社の基準が、年間売上高が1,000 万ルピーから1,500 万ルピーに上昇する
(同スキーム適用時のGST 税率は一律1%で、年1 回の申告のみで良いとされています。)
・小規模サービスプロバイダーに対して、前年会計年度売上高が500 万ルピー以下だった場合、コンポジションスキームが適用となり、現存の18%から一律6%(中央GST3% + 州GST 3%)のGST が課税となる
■社会保障施策
・国家年金制度(National Pension System: NPS)における政府負担額の増加
NPS における保険料の財源を拠出するため、政府負担額が従業員の基本給の14%に増加する提案がされました。一方、従業員負担額は従来通り10%に据え置く見込みです。
・非組織部門就労者に対する賞与額増加
非組織部門就労者が受給する賞与の下限額を3,500 ルピーから、7,000 ルピーへ、上限額を1万ルピーから2 万1,000 ルピーへ上方修正する提案がされました。
・非課税の退職金支給額の増加
非課税となる退職金支給額の上限が100 万ルピーから200 万ルピーに増加する提案がされました。
・従業員国家保険法(The Employees’ State Insurance:ESI)適用者の拡大
従来、労働者数10 人以上の工場あるいは、労働者数20 人以上のその他施設、事務所に勤務する月間給与が1 万5,000 ルピー以下の従業員が同法の対象でしたが、給与要件部分を2 万1,000 ルピーに増加する意向が発表されました。
・従業員退職準備基金(The Employees’ Provident Fund:EPF)及び従業員年金スキーム
(The Employees’ Pension Scheme:EPS)における死亡時手当額増加
従業員死亡時の支給手当額を25 万ルピーから60 万ルピーに増加する提案がされました。
■その他変更点
・小規模農家に対する収入補助
2 ヘクタール未満の土地を所有する零細経営の農家に対して、年間6,000 ルピーの現金配布を行う案が提案されました。受給対象となる農民は1 億2,000 万人に及ぶ概算です。
・特定業種従事者の融資ローン返済における優遇措置
畜産業と漁業従事者が融資ローンの返済日を遵守する場合、従来の金利2%分の補助金を5%に増額する旨を発表しました。
・非組織部門就業者に対する公的年金制度の導入
月間所得が1 万5,000 ルピー未満の非組織部門労働者に対して、60 歳から3,000 ルピーの年金支給を行う旨が発表され、対象となる労働者は1 億人に上る見込みです。
・漁業省の設立
海産物の輸出量を増加するため、漁業省を別途設置することが決定しました。
・中小企業向けローン申請手続の迅速化と金利優遇措置
上限1,000 万ルピーの中小企業向けのローン申請手続を1 時間以内に完了する方法が導入され、GST 取得済中小企業のローン申請には金利2%分の助成金を認める提案がされました。
・北東州のインフラ整備の強化
北東部州のインフラ整備に分配する予算割当額を21%増加する提案がされました。
・Digital Village の増加
2019 年度から5 年間で、電子マネー取引を推進して現金取引を廃止する“Digital Village”の数を10 万まで増やす意向が発表されました。
・2002 年マネーロンダリング防止法の改正
マネーロンダリングとして税務調査が入った場合の押収物、または財産の差し押さえ期間は、90日から365 日まで延長することが提案されました。
・印紙税徴収管理上の変更
1899 年インド印紙税法が改正され、証券市場商品に課される印紙税の徴収を単一の機関、単一の場所で行う旨が提案されました。これは、買主の本籍地が属する州の政府への印紙税の適正な分配や、単一の期間や場所で課税する事によって、一元管理を行う事を目的としています。
本改正による変更点は以下の通りです。
・電子化された証券の譲渡に対して印紙税を課税する提案がされました。
・「割当リスト」、「社債」、「市場価値」、「有価証券」といった特定の定義付けが新たに提案されました。
・「証券」の定義に、電子形式のもの、あるいは証券取引所/預託機関における取引のためのものも含まれます。
・印紙税は、最初の資本金投入の際に課され、証券取引所/預託機関で売却または譲渡される証券に対しては課されません。
・印紙税の支払い者は原則買主の本籍地に基づきます。ただし、買主がインド国外に居住している場合は、取引会員またはその仲介業者の事務所が登録されている州政府、買主の取引会員がいない場合は、関係者の事務所が登録されている州政府が支払いを行うものとされました。
・印紙税の納付義務者は以下の通り定められています。
細目 納税対象者
証券取引所を通じて、証券を売却した場合 証券の買主
証券取引所以外を通じて、証券を売却した場合 証券の売主
預託機関を通して、証券を譲渡した場合 証券の譲渡者
証券取引所又は預託機関以外を通して、証券を譲渡した場合 証券の譲渡者
証券取引所や預託機関などを通して、証券を発行した場合 証券の発行者
・印紙税のレートが以下の通り提案されました。
債券に対する印紙税 レート
発行 0.005%
譲渡と再発行 0.0001%
債券以外の証券に対する印紙税 レート
発行 0.005%
引き渡し基準による譲渡 0.015%
引き渡し基準によらない譲渡 0.003%
デリバティブ  –
・先物 (普通株と商品)   0.002%
・オプション(普通株と商品)0.003%
・為替と金利      0.0001%
・その他         0.002%
政府証券          0%
社債の買戻し特約    0.00001%
印紙税は金融商品毎ほ課税となり、証券取引所、決済会社または預詫機関を通じて単一の場所で徴収されます。
徴収された印紙税は、購入者の居住地に基づき、州政府間の円滑な分配が期待されます。

インドにおける貧民層

■貧困層とインド経済

インド経済の牽引役が貧困層であるという見方があります。近年の所得増加の結果、生活必需品や基本的サービスに対する貧困層の巨大な需要を生み出しているためです。中流予備軍とも言える彼らは、最低生活水準よりは上の暮らしをしていますが、消費社会に仲間入りをするほど豊かではありません。貧困層の台頭自体は目新しい話ではありませんが、リーマン・ショック後の経済状況下で、彼らの持つ影響力が明らかになりました。
世界的な信用崩壊や輸出の落ち込みによる衝撃を、ほとんど帳消しにしてしまうほどの力を持っていたのです。リーマン・ショック時にインド経済の傷が浅かったのは、政府の過去の失敗に助けられた面もあります。外需が減速してもさほど困らないのは、中国のような輸出大国になりきっていなかったことの裏返しと言えます。このような事情に加えて、インド政策当局の功績もあります。世界的な信用バブル崩壊の拡大過程で、経済への波及効果が大きい道路や通信網へ投資を進めました。

■危機の影響が少ない貧困層

IT 業界は過去1 0 年で18 0 万人の直接雇用を生み出し、それを支援する運送や警備、雑用などでも650 万人の雇用が創出されました。これらは、高卒以下のレベルの仕事です。その結果、「貯めるより消費しそうな」人々の手にお金が渡ったと言われています。IT 産業の冷え込みで大きな雇用創出は期待できないにしても、現在の就業者だけでも、当面の間、経済を引っ張るに足る力があります。底辺層が牽引するインド型成長では、景気拡大に限度があることも事実です。
しかし彼らは、時折起こる消費の低迷とはほとんど無縁の消費者です。株を持っていないので、株価下落も関係ありません。もともと車が買えるほど豊かではないので、自動車の販売不振にも関係はありません。ましてや住宅バブルの崩壊など、縁のない話です。ムンバイやニューデリーのような都市で高級コンドミニアムが大量に余っている一方で、インド全体は深刻な住宅不足に悩んでいます。建設会社が高級物件ばかりをつくるため、標準的価格帯の物件が不足しています。ニューデリーの開発当局が2 0 0 8 年、低価格のアパート5,0 0 0 戸の抽選による買手を募集したところ、約5 0 万件の申込が殺到しました。こうした現状を踏まえ、インド政府は最近、内需拡大を焦点とした大型景気刺激策を打ち出しました。そのターゲットは、アメリカや中国のように都市部の中間所得層ではなく、貧困層です。

■インド政府の貧困層への配慮

インド政府の、貧困層への配慮もあります。好調なインド経済を背景にして、産業界は金融緩和による景気刺激策を求めましたが、RBIはこれを拒否し続けてきました。有権者の大半を貧困層が占めるインドが、年率1 0% を超える経済成長を目指すのはリスクが高過ぎる、とRBI は判断したのです。高成長の代償としてコメや小麦粉など生活必需品の価格が高騰し、国民生活に悪影響を及ぼしかねないからです。
インドの有権者はひと筋縄ではいきません。2 0 0 4 年の総選挙では、経済が好調だったにもかかわらず、インド人民党(BJP:Bharatiya Janata Party)を中心とする与党連合国民民主同盟(NDA:National Democratic Alliance)が敗退しました。BJP の選挙スローガン「輝けるインド」が、貧困層の反感を買ったからです。貧困層は、インドが他の国と比べてどれだけ速く成長しているかなど気にしません。彼らの唯一の関心事は、5 年前より生活がよくなっているかどうかです。

■民間の努力

インドにはいわゆる貧困層(2 0 1 1 年の購買力平価に基づき1 日1.9 ドル以下の所得層に設定)が1 億7,0 0 0 万人(2 0 1 5 年時点)いると言われています。その一方で、普通の日本人からは想像もできないような暮らしをしている裕福な人たちもいます。インドには、貧困層を支援する事業活動を行っている企業や団体があります。貧しい家庭で、まともな職業につけない人たちに、彼らでもできるような簡単な仕事を与え、段階的に自立を促していくのです。たとえば、小額の事業資金を貸付け、畜産など簡易にできる事業をノウハウとともに提供します。また集落の中心的農家にパソコンを備え付け、インターネットで取引価格の相場が分かるようにします。そうすることで、零細農家の作った作物・畜産物が、仲買人に安値で買い叩かれることを防ぎます。草の根的な、気の遠くなるような活動ですが、億単位の貧困層を巻き込んでいくことができれば、大きな力になるはずです。

■貧困層への投資増加

インドのように貧困者を多く抱える国では、NPO が行う支援活動に依存するよりも、企業が積極的に貧困者に投資することが望ましいと考えられます。
貧困層への融資を目的として、1996 年から活動しているNPO の借手は現在4 1 万人程度ですが、2 0 0 6 年から貧困者貸出事業を始めた会社は、すでに6 8 0 万人の借手を集めることに成功しています。
この比較を見ても、違いは歴然としていますが、その要因は両者の保有資金の差にあります。貧困者貸出事業を行っている会社はさらなる事業拡大を予定しており、多くの貧困者を抱える他の国でも事業化することが計画されています。在インド日本大使館の発表では、インドの低所得者層(世帯可処分所得5,0 0 0 ドル未満)は2 0 1 5 年には9 億6,5 2 0 万人(全体の73.8%)ですが、2030 年には 7 億880 万人(全体の46.5%)まで低下する見込みです。
言い換えれば、それだけ低所得者層(世帯可処分所得5,000 ドル未満)が中間層に育つポテンシャルがあります。日本企業も会社に資金が豊富にありながら、投資先がなく滞留しているのであれば、世界中の貧困層を対象とした事業に進出することを考えてみる価値はあるように思えます。

インド経済の今後の課題

■インフラ整備

インフラ政策の遅れがインド進出を阻む最大の問題であると言えます。中国とインドを比較すると、
人口はほぼ拮抗し、国土面積は中国の3 分の1 程度であるにもかかわらず、インドの道路舗装率は中国の3 分の2 程度にすぎません。
裏返せば、この数字はインドで中国並みのインフラ整備が進めば、さらなる大きな成長の可能性があることを示しています。
電力供給については、インドの消費電力は今後10 年間で倍増すると言われています。にもかかわらず、発電量は過去10 年を遡ってもピーク時の需要を満たしたことがありません。現在は電力の大部分を石炭火力に依存していますが、安定供給を行うには原子力に頼らざるを得ず、2 0 1 8 年4 月現在、合計2 2 基(678 万kW)の原発が運転されています。
2 0 1 1 年の福島原発の事故はインドでも報じられ、国民が不安を募らせましたが、インド政府は「インドの原子力発電は100% 安全」と発表し、鎮静化につとめました。マスコミが原子力産業の体質の不透明さを強調したのに対して、首相は今後の原子力規制委員会の強化と原子力情報の公開を表明し、国民の理解を求めました。

■財政赤字

インド財政は長期的に赤字が続いています。税収の伸び悩みに加え、貧困対策として生活必需品に対する財政支援が行われていたことが要因と言えます。インドは、他の新興国と比較すると税収の対GDP 比が低く、インドが財政赤字を減らすためには税収の増加に取り組む必要があると言えます。
またインドは、所得税納税者が全人口の2 ~ 3% しかいない状態であり、税収増加のためには課税対象の拡大が必要です。
リーマン・ショックに対処するため、インドも他国と同様に、インフラ投資などの財政出動を増額することで危機を乗り切ろうとしまた。この景気対策が、財政赤字を一時GDP の7.8% にまで拡大させる結果になりました。経済が高成長軌道に戻った結果、財政赤字は減少し始めているものの、赤字額は依然としてリーマン・ショック以前より高水準です。また対GDP 比率で見ても、タイやインドネシアといった他のアジア諸国と比較しても非常に大きくなっており、食糧などの生活必需物資価格上昇が続けば、再び深刻な赤字に発展する可能性があります。
大規模かつ慢性的な財政赤字は、インフレ圧力や経常赤字拡大圧力を高めるなど、健全なマクロ経済運営を妨げる要因になっています。また、十分なインフラ投資ができないことが、結果外資系製造業のインド進出を阻害する原因になるなど、インド経済にとって大きなボトルネックになっています。ただ、2 0 1 8 年度1 ~ 3 月期の実質GDP成長率は7.7% とインド経済は未だハイペースで成長しており、税収が経済規模に連動することを踏まえると、経済成長を持続的に達成できれば、赤字問題も軽減されると考えられます。インド政府は2018年度の成長率見通しを+ 7.5 0% とし、引続き高成長路線を志向しています。
一方、2017 年度の財政赤字の対国内総生産(GDP)比を3.2% とし、2 0 1 6 年度見込みの3.5% からの赤字圧縮を明確化しています。また、2018 年度は3.0% とし、引続き財政規律を重視する計画となっています。
[前年度からの改善傾向見せる]
中央中央統計局(CSO)は、2 0 1 8 年第1 四半期のGDP 成長率(2 0 1 1 年基準)を8.2% と発表しました。製造業をメインとし、電気、ガス、水道などのインフラ業などが後押ししたと考えられます。2 0 1 8 年から2 0 1 9 年にかけては7.2% と低い成長率が予想されていますが、引続き安定した成長率を維持しているといえます。
[ 望まれる投資拡大]
2017 年度GDP 成長率事前推計を需要項目別に見ると、GDP の過半を占める民間消費支出は前年度の8.7% 増を下回る6.3% 増となり、成長減速の大きな要因となっています。投資の動向を表す総固定資本形成の予測は37 兆6,505 億8,000 万ルピーで、前年度の2.4% 増を上回る4.5% 増となったものの、GDP成長率より低い水準に留まりました。また、総固定資本形成がGDP 全体に占める割合は2004 年度以来最も低い29% となりました。地場大手信用格付会社のケア・レーティングは、「残念ながら投資の状況に大きな改善は見られず、段階的な回復傾向が見られるのみだ」としています(ビジネス・スタンダード紙、2018 年1 月6 日付)。
産業部門別のGVA 予測を見ると、農林水産業が前年度の4.9% 増から2.1% 増に、製造業は7.9% 増から4.6% 増に落ち込みました。一方、サービス分野は好調で、貿易・ホテル・運送・通信・報道関連サービスは7.8% 増から8.7% 増に、金融・保険、不動産・ビジネスサービスは5.7% 増から7.3% 増に拡大しました。
[ 下半期のさらなる回復に期待]
通常、通年のGDP 事前推計は、現時点で入手可能な6 ~ 9 カ月の各種統計から算出されるため、今回の推計に年度後半の回復を正しく盛り込めていないとの声も多く聞かれます。インド工業連盟(CII)のチャンドラジット・バナジー事務局長は、民間投資は回復途上にあるとし、「年度後半の成長状況によっては、推計値が上方修正される可能性もある」とコメントしています(ビジネスライン紙、2018 年1 月6 日付)。

■貿易赤字

インドは、かつて貿易について、国内で調達できないものを限定的に輸入するという方針を取っていました。たとえば、ライセンス制および輸入数量割当、高関税などの手段により厳しく規制されていたため、貿易額は少額にとどまっていました。しかし、1991 年以降の貿易自由化および1995 年の世界貿易機関(WTO:World TradeOrganization)加盟によって、貿易の多角化が進み、取引額も急増しました。
2 0 1 6 年には輸出総額が2,7 1 6 億US ドル、輸入総額が4,0 2 4 億US ドルと、1 9 9 5 年に比べて約1 5 ~ 1 6 倍以上にまで拡大しました。一方で、輸入額が輸出額を上回って推移しているため、インドの貿易収支は恒常的に赤字となっています。このような貿易赤字の増加原因は、輸入額に大きな割合を占める原油需要の増大にあります。原油は輸入に依存しているため、輸入量の増加に加えて、国際的な原油価格上昇の影響により、赤字が拡大しました。課題と言われている貿易赤字については、2 0 1 6 年度では7 6 5 億5,000 万US ドルとなり、前年同期の1,0 00 億7,000 万US ドルから縮小しました。とはいえまだまだ赤字であり、輸出業の育成など、政府の対策を注視していく必要があります。

■今後の展望

インド経済は多くの貧困層を抱えていることに加え、インフレリスクや経常収支赤字、財政赤字などさまざまな問題も抱えています。その一方で、インドではハイペースでの経済成長が続いており、輸出型製造業の台頭など産業の高度化が進んで国際競争力が強まっている中で、これらの諸問題が経済成長を阻害するのではないかという大きな懸念があります。
インド経済における最も重要な課題の一つが、インフラの整備です。この問題の根本的な原因は財源の不足にあります。供給制約を打破するためにインフラ整備が喫緊の課題であることは、誰の目にも明らかでしたが、財源がなかったために問題が放置されてきました。財源を確保し、インフラの整備を行うことで、インフラ整備自体が需要を創出するのみならず、国の国際競争力も強化され、経済成長を加速させることにも繋がります。インドのジャイトリー財務相は、2 0 1 7 年度2 月1 日、2 0 1 7 年度(2 0 1 7 年4 月~ 2 0 1 8 年3 月)の政府予算案を発表しました。
2016 年予算案に続き財政面からも積極的にインフラ整備を進めることが優先課題であり、鉄道、空港、道路の建設・近代化に過去最⾼のインフラ支出となる総額3 兆9,6 0 0 億ルピー(約6.6 兆円)を投資する計画です。効率的、生的で価値ある生活の実現のために、中期的には7,000 の駅に太陽光発電装置の設置を計画しています。
また若年層を中心とした人口増加が続いており、高学歴層をはじめとした質の高い労働力も豊富です。しかし現状では農村から出てくる若者の雇用がないため、今後はこういった人材をどのように活かすかがインドの課題となっています。近年、インドのインフラ未整備という従来の弱点は、むしろ投資が投資を呼ぶ高成長の源泉となっています。
そして、やや長い目で見れば、インドは直接投資と、現状の農業といった第1 次産業から第2次、第3 次産業への産業構造転換によって、ハイペースの経済成長が続くと考えられます。このような中、2 1 世紀はインドの時代になるとの見方が今後、一段と定着していくと考えられます。
[2018 年度は回復見込む]
2016 年11 月に実施された高額2 紙幣の廃止と、2017 年7 月の物品・サービス税(GST)導入により、経済先行きに不透明感が増したことが影響し、2017 年度の経済成長は一時停滞しました。2017年度第1 四半期(2017 年4 ~ 6 月)のGDP 成長率は直近3 年間で最も低い5.7% 増に落ち込みましたが、
その後は回復を見せ、第2 四半期(同年7 ~ 9 月)は6.3% 増となりました。中央統計局(CSO)は2 0 1 7 年度のGDP 成長率の事前推計値を6.5% 増と発表。
しかし2018 年1 月に政府が発表した「2017 年度経済白書」によると、20 1 8 年度は回復を見込んでおり、7 ~ 7.5% 増の成長を予測しています。
国際機関の予測を見てみると、IMF は2 0 1 8 年1 月の「WorldEconomic Outlook」で、2 0 1 8 年度のGDP 成長率を7.4% 増、2 0 1 9 年度を7.8% 増としました。世界銀行は2 0 1 8 年1 月に発表した「The 2018 Global Economics Prospect」の中で、2018 年度のGDP 成長率を7.3% 増と予測。旺盛な個人消費とサービス分野が今後も経済を下支えし、GST も中期的には経済活動や財務状況の改善に繋がっていくだろうとしています。
[ 総選挙へ向けた1 年]
2018 年は、モディ政権は発足4 年を迎えようとしており、2019年には総選挙を控えています。政権はこの1 年間でこれまでの政権公約を実施する必要に迫られていますが、中心的な政策である製造業振興策、「メイク・イン・インディア」については、製造業の成長や雇用創出など具体的な成果は見られていないとの指摘もあります。
こうした状況の下、2 月1 日に発表された2018 年度国家予算案は、地方経済や農業の活性化、低所得層対策などに力が置かれた内容となりました。また国内産業保護ともとれる、自動車のCKD 部品、携帯電話など、いくつかの主要輸入品目の基本関税の引上げが実施され、ビジネス環境への影響が懸念されます。総選挙を前にいくつかの州での地方選挙が予定されています。与党・インド人民党(BJP)はこれまで主要な州選挙で勝利を重ねてきました。
しかし、2017 年12 月に開票された、モディ首相のお膝元であるグジャラート州選挙では、過半数を死守したものの議席数を減らしました。2019 年春の総選挙を控えたモディ首相は前回以上の議席獲得への意欲を見せているものの、一部では、地方選挙での敗北などと合わせてモディ政権の失速への懸念も聞かれ、今後も目が離せません。
[ 投資環境の改善]
インド日本商工会(JCCII)は、商工省産業政策促進局(DIPP)を通じて、2009 年から毎年、ビジネス環境の改善要望を建議書としてインド政府に提出しています。この活動はJCCII の建議書推進委員会が会員企業の声を集約し、日本大使館、ジェトロと協力し実施しています。建議の内容は査証問題など企業活動全般にかかわるもの、税制、金融、物流などの専門的項目、各地域・州政府などに対する地域項目から構成されます。
2017 年は税制、銀行、鉄鋼製品、知的財産、手続、インフラなど9 の大項目からなる全42 項目について建議書を提出しました。JCCII は建議書活動活性化のため、2017 年2 月12 日、ニューデリーで進出日本企業を招きセミナーを開催しました。建議書推進委員会を代表し開会挨拶に立ったインド三井物産の八木浩道社長(当時)は、「建議書活動は、日印双方が課題を共有することができる貴重な機会」であることを強調しました。ジェトロ・ニューデリーの仲條一哉所長は、ジェトロの「2017 年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」から見えるインド進出日系企業の活動状況について解説しました。「これまでの日本からインドへの投資は、自動車産業および大企業が中心であったが、今後は業種や企業規模の多様化が求められる」としつつ、「農村などさらなる国内市場開拓や国外へのバリューチェーン拡大が新たな投資拡大のエンジンとなる」との見方を示しました。また、投資を増加させるためには、市場の要因に加え、投資環境の改善努力が必須であり、そのために建議書の存在が重要と結論付けました。
[2018 年度国家予算案]
2 0 1 8 年度予算案は地域経済や低所得層への支援強化の姿勢を示す内容になっています。また、国内製造業振興を意図し、自動車のCKD 部品や携帯電話などの基本関税の引上げが盛り込まれています。ジャイトレー財務相は、2 月1 日、2 0 1 8 年度(2 0 1 8 年4 月~2 0 1 9 年3 月)の国家予算案を国会に提出しました。今回の予算案発表に至る前提条件として、2017 年7 月の物品・サービス税(GST)導入の影響や2 0 1 6 年1 1 月の高額紙幣廃止がもたらした経済の落ち込みを背景に、2017 年度の経済成長率予測値は6.5% となっていました。
なお、予算案提出に先立ち1 月2 9 日に発表された「2 0 1 7年度経済白書」で、政府は2018 年度のGDP 成長率を7 ~ 7.5% と予測しています。2 0 1 9 年第二四半期4 ~ 5 月に迫る総選挙を見据え、革新的な政策や変更を打ち出すことはできないのではないかとの予測どおりの予算案と言えます。2 0 1 8 年度歳出総額は前年度(暫定値)から1 0.1% 増の2 4 兆4,2 2 1 億3,0 0 0 万ルピー( 約4 1 兆7,6 1 8 億円、1 ルピー= 約1.7 1 円)。歳入の中心となる税収は1 6.6% 増の1 4 兆8,0 6 4 億9,0 0 0 万ルピーを見込んでいます。予算上の単年度財政赤字は6 兆2,427 億6,000 万ルピー、GDP 比3.3% となります。財政赤字は経済の健全性を示す重要指標ですが、2017 年度予算でのGDP 比は当初3.2% でしたが、決算値では3.5% に拡大しています。
[ 農業、地方経済、貧困層支援を強調]
ジャイトレー財務相は、より多くの国民に声を届けるための意図か、予算案スピーチの大部分を英語ではなくヒンディー語で行い、今回の予算案は政権発足後に達成してきた経済成長や改革を集約したものであり、特に農業、地方経済、経済力が低い階層への十分な福利厚生の提供、教育水準の向上などに注力したことを強調しました。代表的な措置として、農業部門では、生産コストの最低1.5 倍の価格で作物を買い取るという最低支持価格(MSP)の対象作物を拡大しました。福利厚生では、1 億世帯の低所得家庭(約5 億人)に対し、年間最大50 万ルピーまでの病院費用を保障する「国家健康保護
スキーム」を発表しました。マスコミはこれをオバマケアになぞらえ、「モディケア」と取上げましたが、予算確保の観点から実現を疑問視する声もあります。
政権は雇用創出を発足時からの政策の基軸に位置づけ、昨年度予算案でも雇用創出を強調したものの、大きな効果が期待できる政策措置は盛り込まれませんでした。その他、インフラ向け予算は昨年度比約2 割増の約5.9 兆ルピーが計上されました。またAI やIoT などの技術に下支えされるデジタル経済のさらなる活性化が盛り込まれ、「デジタル・インディア」プログラムへの予算配分が倍増されました。
[ 法人税引下げ範囲を拡大]
直接税では、法人税の引下げが目玉となりました。2017 年度予算で導入された年間総売上が5 億ルピー以下の企業に対する法人税率を2 5% へ引下げる措置が拡大され、2 0 1 6 年度から対象が2 5 億ルピー以下の企業に拡大されます。政府は99% の企業が法人税引下げの恩恵を受けるとしたものの、投資余力の大きい大手企業がこれに該当しないことから、産業界からは落胆の声も聞こえています。
その他の主な変更点は、法人税、個人所得税に課される教育目的税が、健康教育税(Health and Education Cess)となり税率を3% から4% に拡大。1 0 万ルピーを超える上場企業株取引による長期キャピタル・ゲインへの1 0% の課税などが盛り込まれています。また、非居住者課税が強化される方向性にあるとされており、当地の会計事務所は「恒久的施設(PE)要件については一層の注意が必要」と指摘しています。
[ 製造業の成長期待する基本関税引上げ]
間接税では、輸入に課されていた教育目的税(基本関税の3%)が廃止され、2 0 1 8 年4 月から新たに「公共福祉サーチャージ」として基本関税率の1 0% が追加課税されます。基本関税率の変更では、製造業振興政策「メイク・イン・インディア」を進めるべく、国内産業保護の色が現れ、いくつかの主要輸入品目の基本関税が引上げられました。自動車CKD 部品の基本関税率は10% から15% に上昇しました。
また、携帯電話が15% から20% に、同特定の部品が10% から15% に、LCD、LED、OLED パネルや部品が10% から15% にそれぞれ引上げられました。
GST については関連する重要法案などは発表されず、申告の簡素化や導入が遅れているE-Way Bill※についてなどは、引続きGST 評議会で審議されています。コタック・マヒンドラ銀行のエグゼクティブ・バイス・チェアマン、ウダイ・コタックは「財政赤字は市場の想定より少し拡大したが、GST 導入後の混乱からの回復を考えれば、大きな動きではないだろう」と評価しています。地場E コマース大手・フリップカートの共同創設者、サチン・バンサルは、今回の予算案をバランスの取れた予算案とし、AI や「デジタル・インディア」強化の方向性を評価しました。
※インド国内での物品の移動をネットワークで管理し、物品の移動時に課せられるGST額を管理、徴収する仕組みのもと、発行する電子運送証明書。5万ルピー以上の価値のある物品移動時に必要
[ 政策金利据置き]
インド準備銀行(RBI)の金融政策委員会は2 月7 日、先行きの物価上振れ圧力などを警戒し、政策金利(レポレート)を6.0 0% に据置きました。RBI は2 0 1 8 年2 月7 日発表の声明で、公務員の住宅手当引上げの影響、世界経済の回復による原油価格等への上昇圧力、予算案で提示された関税の引上げなどの要因で、今後数カ月間の物価変動を警戒しているとし、前回声明時(2017 年12 月)には、2017 年度(2 0 1 7 年4 月~ 2 0 1 8 年3 月)後半の消費者物価指数(CPI)上昇率を4.3 ~ 4.7% と予測していましたが、今回の声明で第4 四半期を5.1% に引上げました。次回の金融政策委員会は2 0 1 8 年4 月4 ~ 5 日に行われる予定です。
なお、政策金利と市中銀行の貸出金利をめぐっては、不良債権問題により利率引下げの難しさが指摘されています。RBI は、政府と協調して不良債権問題に取り組んでいる中、2018 年2 月12 日には、不良資産(Stressed Assets)整理にかかわる従来制度の改定を発表しました。破産・倒産法の一層の活用を促すなど、銀行システムの健全化を強力に進める構えです。

■インド経済の今後の課題

消費が大きいことは良いことばかりではありません。かえって先行きリスクを増大させるという側面もあります。主なリスクを整理すると、以下のものがあげられます。

参考文献

[参考資料・ウェブサイト]
・ IMF(国際通貨基金)“World Economic Outlook Database”
https://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/weodata/index.aspx
・ Reserve Bank of India(RBI:インド準備銀行) https://www.rbi.org.in/
・ Government of India Ministry of Commerce and Industry http://commerce.
gov.in
・ National Council of Applied Economic Research(NCAER:インド国立応用
経済研究所) http://www.ncaer.org/
・ 世界銀行 “World Development Indicators 2017”
https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/26447
・ Reserve Bank of India“ Handbook of Statistics on the Indian Economy”(発
行年月:2017)
https://rbidocs.rbi.org.in/rdocs/Publications/PDFs/0HANDBOOK2017C9C
F31D4B78241C9843272E441CD7010.PDF
・ 外国投資促進委員会(FIPB:Foreign Investment Promotion Board)
・ 産業政策推進局(DIPP:Department of Industrial Policy & Promotion)
・ India Brand Equity Foundation(インド ブランド エクイティ ファンド)
“About FDI in India, 2018.10”
https://www.ibef.org/economy/foreign-direct-investment.aspx
・ Sankeibiz
・ JETRO「調査レポート インド市場と市場開拓」2012 年3 月27 日
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2012/07000866.html
・ AsiaX.biz「インドの今を知る インドビジネス2011 年回顧と2012 年の展
望」2012 年1 月1 日 http://www.asiax.biz/biz/11496/
・ Central Intelligence Agency“ THE WORLD FACTBOOK”

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